第19章 闇~秘密の寺(開門)~
深い緑の木々に
囲まれた地
その寺は忽然と姿を表す
周囲をぐるりと塀で囲まれ
固く閉ざされた門は
ここが一般に
開かれた地ではないと
教えてくれる
門の手前で籠が止まり
突然下ろされる
籠の扉が
無造作に開けられると
目の前にいたのは
明智光秀であった
「降りろ」
「……」
お松は無言のまま
縮こまった手足を
無理矢理動かして
窮屈な籠から這い出る
滞っていた血流が
一気に解き放たれて
身体の隅々に
新鮮な血液が行き渡る
光秀が門の前で合図を送ると
カチャリ…小さな音と共に
門横の脇戸が開く
光秀はお松に来いと
視線で命じた
おずおずと戸をくぐり
光秀の後を追う
その後ろを
四人程の家臣が続き
門から真っ直ぐ続く
石畳を歩くとやがて本堂に着く
すると本堂の中から
紫の袈裟に身を包んだ僧侶が一人
お松でも
紫の袈裟を身に纏えるのが
高僧であると知っていた
突然…尿を漏らした着物のまま
髪は無惨に肩口で斬り落とされ
惨めな格好の自分を思い出す
お松のそんな様子に
気が付いた僧侶は
穏やかな声で告げた
「湯あみの支度は出来ておる
着替えも用意させよう…まずは
身体を浄めるといい」
お松は黙って頷くと
若い僧に案内されて
本堂から続く通路を
ただ黙って歩いた
人気のない境内ではあるが
手入れは行き届き
灯籠などの設えから
豊かな寺であることが
推測された
「私はどうなるのですか」
目前を歩く若い僧に
思いきって声をかけた
「っ……」
驚いた顔で振り返り
そのままじっとお松の顔を見る
ふと視線を逸らすと
黙って首を降った
知らない
と言う意味か
話せない
と言う意味か
髪を切られ
生かされたということは
尼になり俗世とは
離れて過ごせという事なのか
てっきり殺されると
思っていたお松は
寺に連れられて来た意味を
探ろうと懸命に頭を巡らせた
自分より
少し年上に見える僧侶は
それきり振り返る事なく
湯浴み場に案内すると
支度が済んだら
先程の本堂に戻るようにと
告げてお松を一人残し
去っていく
考えは纏まらず何より
自分の排泄物で
汚れた身体を何とかしたくて
言われるままに湯を浴びる