第18章 9月5日
「…どうして
知らせる必要があるの?」
「この国が…領主が
この先も盤若であると
民に知らしめる事で
無駄な争いや不安を避けられる」
「周辺の大名達に
向けても同様だ
跡取り不在で
戦になる事は
間々有る事だが…
身内揉めしてる間に
領地を奪われたんじゃ
元も子もないだろ」
「そっか…
当たり前だけど…
やっぱり
国を治めるって
大変なんだね」
やけに
神妙な面持で
答える白雪
「けど…
跡取りかどうかは別として
政宗が産まれた事…
心から喜んだと思う
政宗のお父様とお母様…
お祖父様とお祖母様も」
白雪の言葉に
埋もれていた
子供の頃の記憶が蘇る
肩車から見た景色
繋いだ手の柔らかさ
名を呼ぶ声の優しさ
抱かれた腕の温かさ
「……そうかもな」
「それに…産まれた時は
祝えなかったけど今は
私も嬉しく思ってるよ」
「は…」
「政宗が
この世に産まれてくれた事」
一点の曇りなき
笑顔を向けられ
息が詰まる
「何度言わせる…
不意打ちで口説くの止めろ」
不機嫌そうに
眉を寄せる政宗の腕に
細い腕を絡ませて
白雪が無邪気に笑う
「お前には敵わないな…」
幸せなため息をつく頃
二人は茶屋に辿り着いた
「いらっしゃいませ!」
二人を見るなり主人が
満面の笑みで迎えてくれる
まだ頼んでもいないのに
団子や茶が次々と運ばれてくる
戸惑う二人に
「店からの祝いです!
お代は結構ですから
召し上がって下さいまし」
「そんな訳には…」
白雪が口ごもると
主人は更に言葉を続ける
「いつもご贔屓にして
頂いてますし…政宗様なくして
この街の繁栄はありませんから
私達からのささやかなお礼です」
「…ってことなら
遠慮なく頂いておく」
政宗が穏やかな
笑顔を向けると
「では…ごゆっくり」
主人は嬉しそうに頷いて
店の奥へと戻っていく
「…たくさん貰っちゃったね」
「ほら遠慮なく食え」
きな粉の
たっぷりかかった団子を
口元に運んでやる
「んっ……おいふぃ」
いくつもの
団子や饅頭を
二人で
半分ずつ分け合って
暫くは見るのも
嫌になる程食べ
主人に
礼を言って店を出る
「夕餉
食べれる気がしない」
「そうだな
食い物見たくないな」