第18章 9月5日
暑くも寒くもなく
頬を撫でる風が心地好い
空は高く澄み渡り
稲はふっくらと実り
さわさわと風にそよぐ
二人
手を取り合って
漫ろ歩く
街はこれから訪れる
長い冬に向けて
支度を始める人々や
短い秋を楽しむ人で
賑いを見せていた
「随分賑わってるね」
「空が秋の匂いになったからな」
「匂い?」
「こうして天を仰ぐと
空から秋の匂いが降ってくるだろ」
政宗の言葉に
白雪は顔を空にむけ
くんくんと鼻を鳴らす
「???うーん…」
「くくっ…猫が
餌を探してるみたいだな」
愛らしい仕草に
喉を鳴らし笑うと
「もぉ…また動物に例える」
ぷぅっと頬を膨らまし
唇をつき出した
「ふっ…拗ねるなよ…
ほら悪かったって」
引き寄せて
背中から腕に囲えば
「……ふふっ…秋の匂いは
分からないけど…この匂いが一番好き」
そう言って
政宗の袖口を
鼻先に引き寄せる
「ったく…お前は…
ほんっとに喰っちまうぞ」
くんくんと
腕に鼻を寄せる白雪の
耳たぶをやんわりと食み
「俺はこの味が一番好きだ」
そう直接
言葉を流し込む
みるみる紅葉色に
染まる肌を楽しんでいると
「相変わらず
仲が宜しいんですねぇ」
通りの薬種屋から出て来た
馴染みの茶屋の
主人に声をかけられた
「おぅ…これから向かう所だったんだ」
「左様でしたか」
にこにこと笑みを浮かべて
二人を見つめる主人に
白雪は慌てた様に
するりと腕を抜け
政宗の隣で頭を下げた
「っ…お邪魔します」
「はいはい
何時でもどうぞ!そうだ…
今日は政宗様の
お産まれになられた日ですね
私共にもお祝いをさせて下さい」
「あぁ…ありがとう」
「ではお待ちしております」
主人は頭を下げると
荷物を抱え直し帰路を急ぐ
足早に進む主人を眺めつつ
また手を取り合って歩き出す
「…街の人達も
政宗の誕生日知ってるんだね」
「ん?あぁ…
父上が俺が産まれた時
盛大に祝ってくれたからな」
「そっか…嬉しかったんだろうね」
「それもあるが…
跡取りが産まれるか否かは
一国を左右する事だからな…」
「跡取りが産まれたと
周知させる為にも必要だったんだろ」
ふと遠くを見つめ
何処か冷めた様に答える政宗