第18章 9月5日
水音だけが響く湯殿で
白雪は縁に寄り掛かり
気持ち良さそうに瞳を閉じて
湯の感触を楽しんでいた
ゆらゆらと揺れる水面から
政宗の付けた所有の証が
透けて見える
「…花びらみたいだな」
突然聞こえた
政宗の声に
白雪が飛び上がる
「きゃっっ…‼」
体勢を崩して
顔まで湯に浸かった白雪に
笑いながら腕を伸ばす
華奢な白い腕が
湯の中で懸命に
政宗の逞しい腕に
しがみついた
「っ…もぉ!」
「ははっ…怒るなよ」
「びっくりした…溺れちゃうよ」
「ちゃんと助けただろ」
「最初から
声掛けてくれればいいのに」
「はいはい…
い・つ・も一緒に入ろうな」
「っ…もぅ…」
白雪はその言葉に
はにかむとそれ以上何も言わず
手桶に湯を汲むと
政宗の肩にそっと流す
少しぬるめの湯が
さらさらと筋肉の上を流れ
汗と共に落ちていく
「熱くない?」
「ぬるい」
「ふふっ…だね…でも
身体を動かした後はぬるいお湯で
筋肉を休めたほうがいいって」
「へぇ…」
「はい…いいよ」
白雪は時々こうして
政宗の知らない知識を与え
英知を高める助けをしてくれる
湯殿の中で端により
場所を開けた白雪の
隣に沈みすぐに引き寄せる
…ちゃぷん…
「んっ…」
全身に花模様を散らした
扇情的なさまに堪らず口づけた
「だめ…のぼせちゃう」
可愛いく嗜められ
仕方なく唇を手放す
「洗ってあげる」
「お前は?」
「今日は政宗が
甘やかされる日でしょ」
そう言われ
張り切る白雪に
肩をすくめて見せる
「はい…きて」
湯殿の端に腰掛けて
政宗に腕を伸ばす白雪
窓から溢れる光が
水滴に反射して
きらきらと眩しい
白い肌に
紅い花びらを散らし
眩い光の中で
自分に向かい手を差し伸べて
微笑む白雪を瞼に焼き付ける
その光景が余りに綺麗で
また一つ祝いを貰ったと呟いた
「なぁに?」
糠袋を手に取り
政宗の背中に回った白雪が
不思議そうに覗き込んでくる
「なんでもない…ただ」
「ん?」
「幸せだと思ったんだ」
政宗の言葉に
目をぱちくりと瞬いて
驚いたかと思うと
政宗の一等好きな
ふにゃりとした笑顔になる
「ふふっ…政宗が幸せで
私も嬉しい…私も幸せ」