第18章 9月5日
安土で自分の生まれた日を
初めて共に過ごした時の
白雪の言葉が頭を過る
《一番にお祝いを言いたくて》
出汁の香りと共に
湯気のたつ善を手に
最高の笑顔を向ける白雪に
考えを察した政宗は
白雪を見付けた安堵と
自分を想う健気な白雪の姿に
柔らかな笑みを浮かべた
「ありがとう…
今朝はお前が朝餉を?」
「うん…誕生日だもの
今日は一日私が政宗を甘やかすの」
少し首を傾げて
政宗に伺いをたてるように
言葉を投げ掛ける白雪
鈴のように軽やかな声が
耳から胸に響き愛しさが募る
「…承知した」
照れ臭さを隠すように
短く応えて
白雪の持つ善に手を掛け
唇を掠め取る
「あっ…」
「最初の誕生祝いだな」
「…もぅ」
困った様に照れた表情を
浮かべる白雪の唇を
もう一度奪う
「んっ…んん…」
「ははっ…いい顔…
二度目の祝いな…夜までは長いぞ
後何度祝ってくれるんだ?」
「もぉ…政宗はしちゃ駄目…
お祝いなんだから大人しくしてて」
愛らしく睨む白雪から
善を取り上げ部屋に入れる
「分かった分かった…ほら
もう1つあるんだろ」
「私が持ってくるから
政宗は着替えてて」
「りょーかい」
揶揄うように応えて
パタパタと廊下を進む
白雪の後姿を楽しむ
(甘えるのは性分じゃないが
あいつがそうしたいって言うなら
仕方ない…付き合ってやるか)
緩む頬を隠すように
着替えに向かう政宗だった
黒漆の善に
大根の味噌汁
蓮根の煮物と卵の焼き物
白粥に鮭の切り身に
白髪葱を添えた物を乗せ
白雪が戻る
「朝から随分と豪勢だな」
政宗は目を見開き
白雪の顔を覗く
「朝早くから
頑張ったんだな…ありがとう」
「ううん…政宗程は
美味く作れないけど…」
箸を運ぶ政宗を
心配そうに見つめる白雪に
緩んだ頬が更に緩む
(こんなだらしない顔…
他の誰にも見せれないな)
「そんな事ない…
どれも優しい味で旨いよ」
パッと表情を輝かせ
本当に?と身を乗り出す
「あぁ…お前の味付けは俺の好みだ」
「良かったぁ…
ねぇこれも食べてみて」
白雪の小さな手が
鮮やかな黄色い固まりを
政宗の口元に運ぶ
卵と魚身の焼物は
政宗の好物だ