第17章 闇~秘密の寺~
「心の臓が止まる
その瞬間まで己を呪え」
振り上げた刀が
下ろされるその前に
恐怖に耐えかねた
お松はその意識を手放した
カチャリ…
政宗は溜息と共に
刀を下ろすと
斜め後ろに視線を投げた
「…居るんだろ」
ミシッ…
板間が軋んだ音を立てる
廊下の影から
光秀が姿を表した
「面白い物を見せてもらった」
「相変わらず
趣味が悪いぞお前…」
「あぁ…理解はしているが
何分…性分なのでな」
さして気に
止めるでもなく笑うと
控えていた家臣に
顎で指図を送る
たちまち
布でくるまれたお松は
家臣の手によって運び出される
「どうするつもりだ」
「相手は若い女子だ…
手駒は多いに越したことはない」
「…妙技庵か」
「奥州の妙技庵は
また一味違うと聞く…
仕上りが楽しみだ」
「はぁ…お前…本当に趣味が悪いぞ」
長く息を吐き
半分呆れた様に言うと
政宗はやっと
妖光煌めく刀を
静かに鞘に納めた
「政宗?何処へ行っていたの」
部屋に戻ると
白雪が待ちわびた様に
寄り添ってくる
ふんわりと香る
甘い香りに
知らず知らず
口元が緩む
「なに?にやにやして…」
「んー…」
腰を引寄せ首筋に鼻を寄せる
いつもするように
ゆっくりと息を吸い込み
肺の中を白雪で満たした
「お前を補給しようと
考えたらにやけた」
ありのままを伝えると
頬を染めて擽ったそうに笑う
「もう…」
「白雪…」
「なぁに?」
名前を呼んだだけで
幸せそうにふにゃふにゃと
笑みを浮かべる白雪
「お前も腹の子も俺が守る」
「え?…ふふっ…
うん…知ってるよ」
微笑む妻を抱き留めて
心の中で懺悔する
例えどんな手を使っても
守りきり共に生きる
その為の秘密は
勘弁してくれな…
政宗は
チクリと傷む心を封じこめ
何事もなかったように
白雪に笑みを見せた
奥州の山深く
人里離れた所にある
その寺は日ノ本に
幾つか点在するうちの
一つだと言う
妙技庵
金に糸目をつけない男達が
然るべき紹介の元集う
庶民は凡そ縁の無い
その秘密の寺へ
今宵また
お松が送られる
薄笑いを浮かべる
光秀を思い出し
改めて趣味が悪いと
思う政宗だった