第17章 闇~秘密の寺~
「…のようですね…もっと早くに
お声をかけるべきでしたわ」
溜息と共に吐き出した
「とにかく
…誰かが白雪様を殺めようと
されたと言うのであれば
私は無関係です…私は色恋の為に
自らを犠牲にしたりは致しません」
「の…ようだな…ふっ」
冷静さを取り戻し
落ち着いた口調に戻った夏野
余りにきっぱりと言い切る姿に
笑いが込み上げた
「で…この話は
幼馴染だけに言ったのだな」
「羨ましがられる事を
皆の前で言葉にするのは
自分が確実に優位に立って
からでないと…
足を引っ張られては
かないませんから」
「賢い選択だな」
夏野の髪を
手の甲で撫でながら
次の言葉を促す
「幼馴染のお松は
はっきり言って
器量は良くないし
実家も武家としては小さくて
私と張り合おうとしないから
一緒にいて楽なんです」
「張り合う…か…
そのお松は此処のところ
変わった様子はないか」
あくまでも優しく
耳元に声を注ぐ
「聞くと言うことは
疑っておいでなのでしょうが
お松はそんな大それた事を
するような女じゃありませんよ
地味で…夏野…夏野って人の
心配ばかりして…とにかく
あの娘は無関係です」
お松の話をする夏野は
何処か馬鹿にした様に見える
光秀は喉の奥で笑ながら
低い声で呟いた
「人の本性とは
分からぬものだと
覚えておくといい」
「そもそも
理由がないじゃないですか
お松みたいな女が
政宗様を敵に回す理由が」
すっかり光秀に
気を許した夏野は
光秀の指を絡めとり
話の内容にはおよそ削ぐわぬ
甘えた声で
上目使いに見上げる
「理由…か
では…聞いてみるとしよう…」
光秀の指が夏野の顎を掬い
唇がぐっと近づいた
「残念だが今はお前の
相手をしている暇がない…
続きはまた今度に
取っておく事にしよう」
ぞくりとする程
怪しい色香を称えた目が
すっと細められる
「くくっ…そう案ずるな…」
不安そうな表情を
浮かべる夏野を愉快そうに笑う
「悪いようにはしない
お前の手紙と白雪を狙った者の
関係がはっきりするまでは
俺の所にいるといい」
長い指が唇をなぞり
先程の熱を呼び起こす
「お前は知らぬだろうが
政宗は白雪の事となると
常軌を逸するからな
政宗の回りを彷徨くと
殺されかねないぞ」