第17章 闇~秘密の寺~
婚儀より四日目の朝
喜多の怪我は
白雪の知るところとなる
無論理由はあの時のまま
蛇に噛まれ毒の為
指を落としたと話した
澄んだ瞳に涙を貯め
喜多の手を握る白雪を
喜多と政宗は
複雑な心境で見つめていた
狙われたのが自分だと知ったら…
そのせいで喜多が指を失ったと
自分を攻めるに決まっている
幸い傷が化膿する気配もなく
順調に回復している喜多
身体を起こせる様になって
身の回りの世話こそは出来ないが
白雪の側で目を光らせている
その様子に政宗も安心して
政務に戻る事にした
その前に一つ
仕事をこなす
明るい光の射す
桜の襖絵と爛漫が
美しい一部屋
白雪が化粧をしたり
着替えをする為に
政宗が用意した部屋だ
今そこに居るのは
後姿のふくよかな女中
白雪の鏡台の中を確認し
手入れをしている様だった
気配を消した政宗が
黙ってその動きを見つめる
白雪よりも
ふっくらと丸いその手が
懐から紅猪口を
取り出す
螺鈿の飾りが
施された漆箱の中
整然と並べられた
紅猪口
その中の一つを手に取ると
自ら持って来た紅をそこに収めた
「また毒か?進歩がないな」
女は突然聞こえた主の声に
ビクリと肩を弾き振り返る
その刹那
女の首筋に冷たい物が触れた
息をのみ身を固くする
コクリ…唾を飲み込むと
その喉の動きで
皮膚の表面が刃に触れ
赤い筋が付けられた
「あ…あなた…だれ…」
震えた声が
唇から溢れ出る
声を発した振動で
刃に触れた皮膚から
つっと一筋鮮血が流れた
「領主の顔も忘れたか」
低い声が部屋を震わす
そこには彼女の知る
領主の顔は無かった
ゾッとするほど冷たい
闇を称えたその目に
同じ様に闇を抱えた
自分の姿が見える
「何故…白雪を狙う」
光秀から手紙の送り主が
判明したと聞き
安堵と共に疑問が湧いた
白雪と出会う前は
女遊びもしていた為
酩酊状態で寝所に入れば
そうゆう事になるのも頷ける
だが…夏野は美しい女だ
そしてその美しさを承知し
その美しさで男に取り入る
知恵もある女だった
一人の男の為
危険を犯すようには思えない
光秀も同じ様に
感じたらしく
手紙を書いた
経緯まで聞き出していた
それによると…