第16章 十月十日~(婚姻の儀)
「喜多が眠ったので…
祝い事だし一応
顔を出しておこうと
廊下に出たら…」
苦虫を噛み潰した顔の
家康がそこまで話すと
「酒をこぼして歩く
三成と出くわしたと…」
政宗が見てきた様に
先を続けた
「それでお前が手ぶらで
家康が善を持ってるのか」
苦笑いの光秀が
三成の代わりに器用な手付きで
着物を拭ってやりながら
二人の顔を見比べる
「はい…家康様が
ご自分が持った方が
安全かつ迅速だと仰って」
対照的な二人の表情に
光秀が笑みを深めた
「まぁ…それは確かだな…」
「行動する時は
考え事はするなと言っただろ
手元に集中するんだ」
秀吉は耳の上辺りを
痒くもないのに
ぽりぽりと掻いて
三成を見上げる
「申し訳ありません…」
秀吉が困った時に
決まってするその仕種
その癖をよく知る三成は
がっくりと肩を落として謝った
「戦以外で役にたつのは10年先だね」
不機嫌そうに話す家康に
ニヤリと不敵な笑みを浮かべた
光秀が肩を叩く
「おや家康…10年先も
共にあるつもりだったのか…
てっきり三成の世話は
秀吉の役目だと思っていたが」
「なっ…」
「家康様…そんな風に思って頂けるなんて」
目を丸くする家康に
笑顔を向ける三成
「ふっ…ふふっ」
やり取りを静かに見守っていた
白雪が堪えきれない様子で笑いだす
「…本当に相変わらず…ふふっ」
「全くだ…騒々しい」
言葉とは裏腹に
腕を組みどこか楽しげな
表情で皆を見つめる信長
「皆そうは変わらんさ」
「あんただって
相変わらず呑気な顔してる」
「案ずるな…お前が
何処に行こうと俺達は変わらん」
「きっと10年たっても家康様に
叱られています」
「冗談じゃない…お前は秀吉さんに
死ぬまで面倒みてもらって」
「三成と家康がいると飽きなくていい」
「光秀さんっ!」
取りとめの無い会話が
穏やかに続くなか
家臣は勿論の事
草履取りや庭番
勝手方の女達に至るまで
方々で酒が振舞われ
賑やかに祝いが行われる
女中達にも次々と杯が手渡され
頬を染めた家臣や女中達が
唄い踊り始めるまでに
さほどの時間はいらなかった
その後三日三晩にわたって
祝いの宴は続き
盛大な歓迎を受けて
織田家の姫は伊達家に輿入れを果たした