第16章 十月十日~(婚姻の儀)
「何だ遠慮しているのか
珍しいこともあるものだ」
何時の間にか
宴の席に姿を現した光秀が
意地悪な笑みを浮かべて
白雪を揶揄いながら
朱塗りの銚子を手に
政宗の隣に座った
「光秀さん…珍しいって
それじゃまるでいつもは
違うみたいじゃないですか」
「何時もは政宗に存分に
甘やかされているんだろう」
「っ……う~っ」
見透かされて
言葉の出ない白雪に
「いいからほら喰え」
政宗は
喉を鳴らして笑いながら
甘く煮た黒豆を摘み
白雪の口に滑らせる
「…おいふぃ…」
「良かったな
もうお前一人の
身体じゃないんだ
ちゃんと食べないとな」
隣にいた秀吉が
にこにこと微笑み
水の入った杯を手渡す
「やれやれ
政宗といい秀吉といい
こう世話焼の男に囲まれては
悪戯も仕掛けられんな」
「ええっ」
驚いた様に声をあげる白雪に
冗談だと満足そうに
笑いながら告げる光秀
「嫌こいつの事だ
気を付けろよ白雪」
政宗までが
笑いながら白雪を揶揄い
秀吉がそれを嗜める
安土城にいた頃と
変わらぬ光景に
白雪の顔に
笑みが溢れた
「しかし…本当に綺麗な花嫁だな
何だか誇らしい気分だ…」
酒を口にして
赤くなった目元を潤ませ
下がった目尻を
増々下げた秀吉が
白雪を繁々と見つめて
感慨深げに言う
「お前も…
見せたかったよなぁ両親に」
口にしてしまってから
己の失言にハッとする
思わず口元を隠して
白雪に目を向けると
「そうだね…
見せてあげたかったけど…
ここには…信長父上も
秀吉母上もいるから」
白雪がくすりと
悪戯な笑顔を向ける
「とうとう秀吉は
信長様の妻となったか」
愉快そうに光秀が言うと
一斉に笑いが起こる
「それに光秀さんに家康さんに
三成くんも…安土から来てくれた
女中さん達もいるし…喜多や青葉の皆も
居てくれる…お義母様だって…
私の家族はここにいる皆だよ」
白雪が満面の笑みを
皆に向けた
「それは良かった…でも
俺と三成を一括りに
しないでもらいたいんだけど」
突然聞こえてきた声に
皆が振り返ると
眉を下げ
困り果てた顔で
濡れた晴着の袖を
懸命に拭き取る三成と
その横で
銚子の乗った善を手に
憮然とした顔で立つ家康