第16章 十月十日~(婚姻の儀)
「喜多…顔色悪かったね」
白雪が不安そうに
政宗を見上げる
「…大丈夫だ…家康がついてる」
「あの注意深い喜多が
毒蛇に噛まれるなんて…」
何気ない白雪の言葉に
ドクリと心の蔵が音をたてた
「喜多だから
あの程度で済んだんだ
…迅速かつ的確な処置だった」
「っ…そっか…」
「お前は一人で庭に出るなよ
特に冬の前は…餌と思って
飛び掛かってくるぞ」
「こっ…怖い事言わないで」
「わかったな?」
「勿論っ」
嘘は言いたくないが
この件に関しては
墓場まで持っていくと心に決め
とにかく白雪が不用意に
一人にならぬよう心を砕く
広間につくと
千畳敷きと称される
広大な広間に
伊達家家臣が
顔を揃えていた
上段の間の金屏風の前に
政宗が進み出る
一拍の間をもって
花嫁が姿を現すと
広間がどよめいた
花嫁を称賛する言葉が
あちらこちらと飛び回る
政宗達と家臣の間に座る
信長や保春院は目を細め
穏やかな笑みを浮かべて
二人を見つめた
やがて萌葱色の
直垂に身を包んだ
伊達家筆頭家老
片倉小十郎景綱が姿を現すと
下段の間に静寂が訪れる
保春院や信長らに一礼すると
政宗の前に進み出た
つと両手を前に出し
拳を畳に付くと
前を見据える
「この度はつつがなく
ご結婚の儀が執り行われた由
誠にお目出度く
これにて当家の繁栄も
増々もってゆるぎなく
執着至極に存知たてまつり候」
太く低い声が広間に響き
小十郎に続き
波が起きる様に
家臣達が次々と頭を垂れる
こうして御披露目の儀が
始まりを告げるのだった
信長の後ろに
控えていた秀吉が
何時の間にか
料理の善と杯を持ち
政宗の元へ寄る
「三成に手配させた…
毒味も済んでるから
白雪にはこれを」
耳元で囁くと
政宗と目配せする
「白雪喉乾いてないか?
気分はどうだ?」
いつも通り声をかけ
白雪の前に善を置く
「秀吉さん…ありがとう大丈夫
って…善を取り替えるの?
まだ手を付けてないよ?」
「んーまぁ…
決まり事みたいなもんだ」
「そうなんだ…」
不思議そうに
善を見つめる白雪に
「ほら…食べさせてやる」
政宗が横から
突然手を伸ばす
「だっ大丈夫だからっ…」