第16章 十月十日~(婚姻の儀)
白幸菱の打掛から覗く
真紅の襟元と唇の紅色が
抜けるように白い
白雪の肌を
一層引き立てている
政宗に向けて
小首を傾げて微笑む姿は
あまりに美しく
政宗の思考を麻痺させる
白雪が動く度
甘い香りが
政宗の鼻孔を擽り
腕に閉じ込めたい
衝動に駆られるのを
何とか抑え込む
「…俺の為にめかし込む
お前を見るのは…気分がいいな」
余裕ぶって
言ってみても
声が揺れて何時もの様に
決まらないのが歯痒い
それでも白雪は
さっと頬を染め
恥ずかしそうに
政宗から視線を逸らした
白雪の
余裕のない態度が
政宗に
いつもの調子を
取り戻させる
「なぁーに目逸らしてる
夫の晴れ姿に見惚れたか?」
「っ……もぉ!」
「図星だな」
にやりとすれば
白雪が何時もの様に
真っ赤になって拗ねる
それを笑う
政宗につられて
家臣や女中達も
くすくすと笑いだし
何時もの
穏やかな光景が戻る
「本当に仲が良いのね」
「からかわれてばかりです
何時も余裕綽々で」
「そうかしら?」
微笑む保春院を
不思議そうに見つめる花嫁
「貴女といる政宗は
いつも精一杯
格好つけている様に見えますよ」
「っ…母上!」
睨む政宗をほほっと笑い
花嫁に向けて笑みを見せる
「貴女の前では
何時でも余裕のある
いい男でありたいのでしょう
これから長い月日の中で
頼りなく感じる事も
出てくるやも知れません
でもその時は
どうか静かに
見守ってやって下さい
時間はかかっても
きっと貴女の頼れる
男になるはずです
これからも末永く
政宗の隣で
支えとなってやって下さい」
保春院が白雪に向い
頭を下げた
「お母さまっ…
頭を上げて下さい
支えて貰ってるのは
私の方です
私に出来るのは
ただ側に居る事だけで…」
「私はそれすら
してやれなかった…
ですから…頼みましたよ」
母が自分の為に
頭を下げるなど
思いもよらない
政宗は眉を寄せ
自分の為に頭を下げあう
女達をただ呆然と見た
「政宗様は
皆様にこんなにも
慕われて…お幸せですね
私もあやかりたい程です」
三成の声で我に返り
気恥ずかしさに顔をしかめる
「保春院様
そろそろ広間に」
三成に促されて
しずしずと
部屋を出る保春院