第16章 十月十日~(婚姻の儀)
両家の結び付きを
強める為の政略婚
それを当然の事として
疑問に思った事さえ
無かった保春院は
政宗の決断に
新たな時代の
息吹を感じる
と同時に
その決断に横槍を入れ
祝い事に水を
指さんとした親族達を恥じ
最上家の先行きに
一抹の不安を感じる
白雪との養子縁組により
政宗に茶々を入れんとする
回りを黙らせ
政宗の決断を
擁護し支え
政に対しても
少々型破りではあるが
良き手本となるであろう
信長の存在は
保春院が政宗を誇らしく
想う気持ちを後押しした
「…本当に成長しましたね
素晴らしい主君に付き
自ら伴侶を見つけ
良き仲間に支えられ…」
「まだまだです
父上と語った…
奥州の未来を実現するまでは
一人前とは言えません」
謀らずも本人の
意思に関係なく
確執の渦に
巻き込まれ
疎遠であった
母からの思わぬ言葉に
気恥ずかしさから
眉を寄せる
「そういう所も父上そっくり」
そう言って
くすりと笑う母
「花嫁はまだなのですね」
保春院が
政宗と三成に向け
そう口を開いた時
廊下から声が
漏れ聞こえる
「…戻られた様ですね」
三成が笑みを浮かべ
襖に手を掛けた
襖の向うでは
控えていた女中や家臣達が
羨望の眼差しを
廊下の先に向けていた
襖が開かれた事に
気付いた家臣が
思わず政宗らに向かって
感嘆の声を漏らした
「日ノ本一の花嫁でございます」
「本当に…」
女中達は
口を開いたままで
惚けたように
見つめている
「…皆さん政宗様の
御前ですよ控えて下さいね」
三成に嗜められて
我に返り慌てその場に
平伏しす家臣達
白雪を迎えるべく
廊下に出た三成が
同じ様に
惚けた表情を浮かべたのは
それから
間のなくのこと…
「三成お前までぼけっと…」
言いかけて
言葉を飲み込む
「………」
それ程までに
妻となる女は
美しかった
薄暗い中
行灯の橙色の灯りが
滑かな肌に映る
純白の綿帽子の裾から
吸い込まれそうな瞳が
真っ直ぐに政宗を見つめる
丹念に塗られた
真紅の唇から
自分の名を呼ぶ声に
はっとする
硝子細工の様に繊細で
絹の様に滑かで
螺鈿のごとく艶やかに
満開の花のごとく芳しい
「政宗?」
「っ…ああ…」
「………綺麗だ」