第16章 十月十日~(婚姻の儀)
三成が晴着に着替え
部屋に戻ると
政宗は
直垂姿で正装し
一人瞑想するように
静かに座していた
「三成か…早かったな…」
足音と匂いで
三成の存在を感じ
瞳を閉じた
ままで声を掛ける
「ただ今戻りました」
三成が頭を垂れた事を
衣擦れの音で知る
「信長様達はどうしている」
ゆっくりと
目を開くと
闇に閉ざされていた
瞳がぼんやりと
行灯の灯りを映す
「はい…皆様お仕度も整い
大広間に集まっておいでです」
次第に鮮明になる視界を
楽しむ様に待つ
「そうか…」
「とてもお似合いですよ」
三成が
笑みを浮かべ
政宗の
凛々しい姿を称えた
「野郎に褒められてもなぁ」
背筋を伸ばして
座したまま
頭だけ傾げて
表情を崩す
「ふふっ…ですが
とてもよくお似合いです
白雪様が見惚れる姿が
目に浮かびます」
「それは言えてる」
二人は
顔を見あわせ笑った
「失礼致します」
少し低い女の声に
来客を知る
声の主である
女中によって襖が開かれると
御高祖頭巾に紫の袈裟姿の
保春院が姿を現す
一歩部屋に入って
政宗をその瞳に映し
その場に立ち竦む
「…母上?」
その様子に政宗が
怪訝そうに声を掛けた
「……輝宗様が
居るのかと…思いました」
息を飲んだ後で
やっと声を発する
「政宗様はお父上に
似ておられるのですね
保春院様にも
面差が似ておいでですが」
三成が二人の顔を
交互に見て微笑む
両親を知る者には
目元は母親似
それ以外は父親似と
言われる政宗
保春院は政宗の姿に
若かりし頃の
輝宗の姿を重ねて
目頭を熱くした
「そうしていると
初めて出逢った頃の父上の様…」
正面に座すると
上から下まで繁々と
政宗を見つめる
「違うのは
貴方は自ら…
伴侶を選んだ
…という事くらい」
眩しげに政宗を見上げ
目を細める保春院