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イケメン戦国~捕らわれた心~

第16章 十月十日~(婚姻の儀)


その頃青葉の
別の一室では


光秀が急ぎの書状を
書かねばならぬが

手を痛めて
困っていると

女中を捕まえて
代筆をさせている所だった


「すまんな」


光秀の美しい横顔が
間近に迫る


「いえ…」


女は微かに
頬を染め俯いた


「安土で見知った
女中に会えて良かった
忙しいのに悪いな」


美しい顔に
妖艶な笑みを浮かべ
低い声で囁くように話す


「いえ…そんな
何とお書きすれば?」


女は居たたまれない様子で
文机の前に座り
筆を手に光秀を振り返る


「……そうだな
出だしはこうだ」


笑みを浮かべた口が
政宗以外が知る筈のない
言葉を紡ぎ出す



「私は貴方に全てを捧げ…
貴方の言葉を待ち続け…」



光秀の言葉に


女の手が凍りつく


「…その先はお前の方が
よく知っているだろう?」


時間が止まったかと
錯覚する程の静寂

女の喉を生唾が
ごくりと通り過ぎた


「なぜ…私だと」


「名を書かぬ知恵があるなら
筆跡を変えるべきだったな」


「筆跡…」


「青葉城までの花嫁行列
参加した者は全て
自ら書状に名を認めただろう」


「数千の中から…私の字癖を
見つけ出したのですか」


溜息と共に
静かに筆を置くと
光秀に向き直る


「…私は…どうなりますか」


腹を括ったのか
真っ直ぐ光秀を見上げた


「さぁな…
どうしてくれようか?
お前の身柄は俺に
一任されている」


目の前の哀れな
獲物を痛ぶる様に

答えを濁して
時を楽しむ


「……この様な事
…政宗様はご自身で
決着を付けないのですか」


「勘違いするな
俺が自ら請け負ったまでの事」


「せめて…
政宗の口から叱責を
頂戴しとうございました」


女が悲しげに瞳を揺らし
今だ忘れ得ぬ愛しい人を想う

「お前にとっては
思い出されぬ方が幸運だろう
俺なら命までは取らぬ」


女が驚いた様に
瞳を見開き顔を上げる


「たかが手紙一つで
…政宗様は命まで奪うと
おっしやるのですか」


女の手が微かに震えた


「……手紙一つと…言ったか」


光秀の言葉に
怪訝な顔を見せる

「あの手紙の事で
お叱りを受けるので
ございましょう?」

光秀は読めない表情のまま
じっと女の顔を見つめる

女が何度目かの
瞬きをした後で
ふと視線を剃らす光秀
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