第16章 十月十日~(婚姻の儀)
青葉の白き庭で
白雪の奏でる茶筅の音が
小気味良く響く
「白雪…どこで茶を学んだ」
「え?…あっ…はい
祖母が茶道と華道を
教えていましたので
私もそこで一緒に学びました」
「ほう…未来では
女子や童も茶を嗜むのか」
「とは言っても子供の頃は
お菓子が食べたいだけで
作法は二の次でしたから
きちんと手順を覚えたのは
大人になってから…ですけど」
白雪が笑いながら
肩をすくめて見せる
「ふん…甘味欲しさに…か
貴様らしい理由だな
今日は好きなだけ食すといい」
信長が柔らかく笑う
「貴様の茶は
俺が点ててやろう」
茶筅の音が止り
白雪の細い腕が
優雅な動きを見せる
「ありがとうございます
まずは信長様から」
白雪が淡く微笑んだ
決め細かな泡が
茶器の表面を覆い
豊潤な香りが漂う
久しぶりの点前に
かつて祖母と過ごした
穏やかな時間を思い返し
感慨深く茶道具を眺める
祖母が使っていた物と
よく似た豪華ではないが
品のよい茶具を眺めていると
不思議と心が落ち着いた
視線を移せば
そこには白雪の為に
そこここに植えられた
純白の寒牡丹が
艶やかに花開き
色濃い枝木には柊の花が
甘く香っている
祖父の作った
庭と同じ様に…
「素敵なお庭ですね」
三成が蜂蜜のように
甘い笑顔を見せる
「三成くん…うん
政宗が作ってくれたの
私の育った庭を模して」
「白雪の育った?500年後の…か?」
秀吉が茶器から顔をあげ
白雪を見る
「うん
白い花が好きな祖母の為に
祖父が作った庭なの
家族が増えたら
木を一本を増やして…
私の名前…白雪は桜の種類でね
私が産まれた時に家族で庭に
植えたんだって」
「素敵なご家族ですね…」
三成が優しい眼差しを
咲き誇る花々に向けた
「うん…」
白雪が余りに
儚く笑うので
秀吉は言葉を呑み込んだ
(逢いたいか…なんて
野暮な事を聞くところだった
たった一人で…
政宗の元で生きる決心をして
家族とは二度と逢えぬと…
今生の別れと分かったうえで
この世へ来たんだ…)
「成る程な…お前の話を聞いて
政宗がここに造らせたのか
いい庭だ…もうすぐ
ここも一本増えるな」
秀吉は意識して
明るい笑顔を向けた
「楽しみだ」
白雪がまだ平らな
腹部をそっと両手で包み
ふにゃりと笑う