第16章 十月十日~(婚姻の儀)
政宗らの部屋での行動を
訝しげに見ていたが
ここへ来て
全ての話が繋がったのか
「ここは私がおります
あなた方は白雪の所へ…
私の女中の久代をここへ
信頼出来る女です」
冷静な声で告げると
政宗を見上げる
「白雪にはいつ?」
隠し事はしないと誓ったが
せめて今夜だけでも
幸せな思いをだけで
胸を埋めてやりたかった
「…せめて…婚儀がおわるまで」
「…承知しました」
保春院は頷くと
熱にうなされる
喜多の額の汗をそっと拭う
家臣を呼び
信長と三成を中庭へ案内させる
あの三人がいれば
白雪は安心だ
男と二人になれぬのは
今も変わらないが
白雪の回りには必ず
女中達が付くようになっている
喜多の采配は完璧だった
その間に光秀と家康
政宗は隣の部屋へ移り
今後の策を練る
「白雪の婚礼衣装は
全て安土の
針子達によるものだ
よって安土の者
意外が触れるとは
どうも考えにくい」
光秀が毒針を仕掛けられる
人間を特定すべく
頭を巡らせる
「毒の特定ですけど
恐らく蛇のものです」
「蛇か…」
「言い替えれば
誰にでも手には入る毒って事か」
政宗が溜息をつく
「そうですね…山に入れば
毒蛇を捕まえるのは容易でしょう」
「自ら入らずとも
猟師にでも頼めば
容易く手に入ろう…
毒蛇は滋養に良いと聞く」
「じゃあ女でも可能だな…」
「女?」
光秀が眉を寄せ
聞き捨て成らぬと政宗を見る
「なんです?心当たりでも?」
家康も同じ様に眉を潜めた
「…実は…」
政宗はかつて
戯れに抱いた女中から
恨みがましい手紙を送られたと
搔い摘んで話した
「はぁーーーー」
家康が盛大に溜息をつき
光秀は男なら当然ある事と
取り立てて気にする様子もない
「で…顔も名前も覚えてないのか」
「あー…正直さっぱり」
「文にはなんと?名前…
書いてあったんでしょう?」
「それが…桜の夜を思い出にとしか」
「ふん…大方花見の晩にでも
誘った女なのであろうな」
光秀が意地悪く笑った
「手紙を預かった家臣は?
女の顔みてるんじゃ」
家康が半分諦めた顔で聞く
「そいつの部屋に
俺に届けてくれと
置手紙と共に置いてあったらしい」
「ふん…そう簡単にはいかぬか」
「その女…政宗さんが
覚えて無い事は
承知のうえなんですかね」