第16章 十月十日~(婚姻の儀)
「政宗?」
「ん…ああ」
政宗が手に取ると
桃色のそれは
安産祈願の
御守りであった
政宗は母に
真摯な眼差しを向け頭を下げた
「ありがとうございます」
「…約束の日が来る事
楽しみにしています」
保春院が穏やかに微笑む
「はい」
政宗が短く応えると
白雪が身を乗り出す
「頑張ります」
保春院は増々
微笑みを深めた
白雪達のやり取りを
横目にしながら
秀吉と江介は花嫁衣装に
眼を凝らす
注意深く確認し
安全を確めた
「…こちらには
不備はないようです
大変失礼致しました」
秀吉が深々と頭を下げる
「今朝は何も
言ってなかったのに
何かあったの?」
白雪が不思議そうに
秀吉を見る
「…あぁ…ちょっとな」
咄嗟に誤魔化せず
言葉を濁してしまう
「安土の針子から
連絡が入ってな…
どうやら急がせたあまり
仕立てた着物に
針を残したままで
包んでしまったらしいと」
政宗が尤もらしく話すと
白雪が驚いた顔を見せた
「針子の皆が?
最後に必ず針の数を
確認するのに…」
「あの衣装箱の数だ
相当の数を仕立てのだろう
確認する暇もない程にな」
政宗の言葉に
嫁入り道具として納められた
途方もない数の着物や反物を
思い出して納得した様子の白雪
「こちらには
特に不備はございませんでした
私は他の衣装箱を確認して参ります」
江介が静かに部屋を出る
「すまんが頼む」
政宗が口元だけで笑い
江介が黙って頷いた
「政宗…俺も御舘様に報告を
…婚礼衣装に針でも残っていたらと
心配されていたからな」
「っ…秀吉さん…
針子達はお咎めを?」
「否…無理をさせたのは
こちらだからな…それに
連絡があったと言うことは
お前の言うように後で
数の確認をしたんだろう
仕事を最後まできちんとしたんだ
褒美があってもお咎めはないさ」
今度は秀吉もすらすらと
淀みなく嘘をついた
「…よかった」
白雪が安堵した笑みを見せる
「秀吉…それならば」
言いながら秀吉に目配せする
「白雪…今日は天気もいい
中庭の東屋で信長様達に
茶を点ててくれないか」
白雪がぱあっと顔を輝かせる
「うん!天気もいいし
秋の花も咲いてるし
きっと気持ちがいい
野点になるよ秀吉さん」
「おう…お前の体調が
問題ないなら一服点てて貰おうか」