第16章 十月十日~(婚姻の儀)
「お前は老婆心が過ぎる…
二千の騎馬隊程度で狼狽えては
武将の嫁は勤まるまい」
信長が呆れた顔をした
「政宗とて一国の主
政宗の妻になると言う事は
どういうことか…
白雪とて考えぬ筈もない」
光秀は
全ての思いを胸に抱き
か細い身体に
隻眼の龍を
刻み込んだ白雪の
凛とした横顔を思い出す
「それはそうだが
…その一途さが心配なんだ」
白雪の気苦労を
案ずる秀吉に
秀吉の後ろにいた
家康が隣に立つと
誰に言うでもなく呟いた
「政宗さんに限らず
俺達みたいな立場の男と
夫婦になるって事は
相当の覚悟をしてるでしょ…」
「ほう…家康の口から
そんな言葉を聞くとはな…」
信長が珍しい物でも見る様に
家康の顔を見た
家臣に馬を任せ
六人の武将達は
城までの道を月明りに
照らされながら歩き始める
闇と月明りが交差する中で
家康がぽつりぽつりと
話し出す
「…一番見てたのは
俺ですから…
政宗さんが白雪に
惹かれ出した時も
白雪が政宗さんに
翻弄されてる時も
白雪が戦場で
心を決めた時も
政宗さんが
白雪に本気になった時も
白雪がどんどん強くなって
政宗さんの中で…安土の中で
その存在が日増しに
大きくなるのをずっと
見てたから…
…白雪の覚悟を見てたから
あの娘は大丈夫です」
家康の言葉を
政宗は複雑な想いで聞く
本能寺で白雪と出会い
安土で共に過ごした時間を
改めて思い返す
信長を助けた事
500後から来たなどと
訳の分からぬ事を言い出した事
懸命に働き…聡い事
素手で謀反人を捕らえた事
政宗に付いて戦へ出た事
突然消えた事
一年後に空から舞い降りた事
政宗の化身を身に刻み
自身の躰は政宗だけの物だと
見せつけた事
皆…同じ様に思い返していたのか
誰も言葉を発しなかった
「…本当に
稀有な女を拾ったものだ」
信長が薄く笑う
「あの…政宗が
本気になるとはな」
光秀も唇を歪めて笑う
「無茶苦茶して
白雪を泣かすなよ」
秀吉が政宗の肩を
ぽんっと叩く
「お節介は程々にして
お前も身を固めろ」
何より自由を好む
政宗らしからぬ台詞に皆が笑った
「家康様は凄いですね…」
黙り込んでいた三成が
ぼそりと口を開いた
「は?」
家康がきょとんと
眼を瞬かせる