第16章 十月十日~(婚姻の儀)
「早速で悪いが台所を
手伝ってやって貰えるか
宴の支度もあるしな
とてもじゃないが人手が足りない」
政宗が女中達に
仕事を頼むと嬉々として受入れ
足早に立ち去って行く
最後に部屋を出る夏野が
襖を閉める瞬間
政宗の顔を睨んだ様に
白雪の瞳に映った
(あれ…気のせい…かな?)
そう感じながら
閉じられた襖を
ぼんやりと眺めていると
「どうした?」
目の前に政宗の
青い瞳が迫る
「…ううん
何でもないの…それより…
何千人の食事のお世話
ここだけで賄えるの?」
白雪が政宗の肩に
ことりと頭を乗せる
「ここで
寝泊まりするのは
ここに留まる者と
役職に付く者だけだ」
白雪の腰に腕を回し
自分の身体に引き寄せる
肩に乗せられた頭に
顔を近付けて
額に唇を寄せた
ままの体勢で
会話を続ける
「そうなの?」
「後の奴らは城下の屋敷と
…後は天幕張って…だ
なんせ騎馬隊だけで二千だからな」
政宗は城下を埋め尽くす
花嫁行列を思いだし苦く笑った
それも数日の事で
昨日から順次
安土へと戻っている
「今夜には信長様も
青葉に到着する予定だ
明日にはお披露目となる
今夜はゆっくり身体を休めろ」
そう言って
白雪の顔を覗き込む
ほんの少し
目元を赤く染めた
白雪の視線が
政宗の唇を乞う様に揺らぐ
政宗が見逃す筈もなく
片方の口の端を引き上げて
にやりと笑う
「本当に分かりやすいな」
「っ…」
何を悟られたのか
経験上知っている
白雪の頬が一気に熱を帯びる
「自分から差し出せよ」
意地悪く笑う政宗
「えっ…」
一瞬狼狽えた後で
白い小さな手が
政宗の襟元を掴む
次の瞬間
柔らかく小さな唇が
政宗の唇にそっと触れた
「…足りないな…もっとだ」
政宗の声が熱を帯び
白雪の耳に艶やかに響く
「もっと寄越せ……」
白雪は政宗の
甘い命令を甘受する
差し出される唇を
焦らすに楽しみながら
政宗が意地悪く問う
「不服って顔だな…
どうして欲しいんだ」
「……虐めないで」
熱に蕩けた顔で
政宗にねだる様に
紅い舌を差し出す
「…気持ちいい…こと…して」
白雪の言葉に
激しさを増す口付け
ゆっくりと二人の影が重なると
部屋に水音が響き始めた…