第16章 十月十日~(婚姻の儀)
「白雪様を城に
お迎えしてからずっと
楽しみに待ってたんですよ」
「どれだけ
待ち遠しかったか」
「おめでとうございます
政宗様 白雪様」
次々と贈られる
温かな眼差しと言葉に
政宗は胸を熱くする
白雪は瞳を潤ませ
声を詰まらせた
「あ~ぁ今から
そんなんでどうするんですか」
「ほら~泣かない!泣かない!」
「あっ!政宗様も泣きそう!」
「えっ!」
驚き顔をあげる白雪
「ばっ…馬鹿言うな
泣く訳ないだろ」
睨む政宗
天守が賑やかな
笑い声で包まれる
青葉城下と
門前を結ぶ大通りが
山吹色の旗で埋め尽くされ
行列が途絶えるまで
政宗達は幸福で温かく
くすぐったい時間を
楽しんだのだった
やがて門前に
花嫁行列の先頭を
任された家臣が到着する
喜多と宗時らが出迎え
城内には次々と
嫁入り道具の品々が納められた
本来ならば
ここで輿から花嫁が
降りるところだが既に
共に暮らしている二人は
婚儀の前半を
省略する運びとなった
その頃城下では
数か月前に
君主が突然連れ帰った
美しい姫君が
織田家の姫であり
正式に妻となる事を
多くの町人達が
知る事となり
町が歓喜に震えた
青葉城の一室
織田家の見守り役が
待つ部屋へと
政宗達が向かう
「政宗 白雪 変わりないか」
「光秀さん!」
「相変わらず呑気な顔」
「家康さんも!」
織田家の見守り役と聞き
恐らくこの二人であろうと
踏んでいた政宗は
余裕の表情で
二人を見つめる
一方白雪は
思わぬ二人との再会に
顔をほころばせ
嬉しげな声をあげた
「やっぱりお前らか」
「来たくて来た訳じゃないから…」
「おや?そうか?
山ほど出産の書を
読み込んでいたと思ったが
白雪の為ではなかったか」
天邪鬼な家康に光秀が
意地悪く笑う
益々嬉しげな白雪に
「はっ?…なんの事…」
うっすらと頬を染め
ぷいとそっぽをむく家康
「二人にまた逢えて嬉しいです」
白雪はそう言うと
花咲く様に微笑んで
更に家康の頬を染めた
「…今まで白雪付きの
女中は居なかったけど
婚儀となればやっぱり
必要だろうからって…秀吉さんが
志願者を募って十数人置いていくから」
「中には針子仲間だった
娘も居たはずだ…後程そちらに
顔見せに行かせよう」
「本当ですか」
白雪が眼を輝かせた