第16章 十月十日~(婚姻の儀)
「あっ見えましたよっ!」
「本当だっ!」
「凄いっ…」
秋晴れの空に
山吹色の織田軍旗をはためかせ
二千の騎馬隊が列をなす
青葉城天守からも
その情景が見渡せた
一行は一子乱れず
規則正しい行進を進め
数キロに渡る
その行列はまるで
人で作った川の様に見える
家臣や女中達が
口々に驚嘆の声を漏らした
「白雪様が此処にいるってのに
花嫁行列ってのも
変な話しだけどなぁ」
緋影が城下を通過する
花嫁行列を眺めながら
不思議そうに政宗を振り返る
「まぁそう言うな…
大人の事情もあるんだよ」
ニヤリと笑うと
「っ…また子供扱いですか」
緋影が悔しげに
眉を潜める
「悔しかったら
早く大人になるんだな」
肩を揺らして笑いながら
緋影の頭をくしゃくしゃと撫でる
憮然としながらも
何処か嬉しそうに
政宗を見上げ
「白雪様に
花嫁行列の事…伝えてきます」
白雪の元へと
軽やかに走り去った
「あっ!政宗様見て下さい!
ほらあれ!…すっごい豪華絢爛」
「こんな花嫁行列見たことも
聞いたこともありませんよ」
「政宗様~!」
興奮して口々に騒ぐ
家臣や女中達に
苦笑しながら
腕を引かれて
その輪に加わる政宗
暫くすると緋影が
白雪と喜多を連れて戻る
眼下に広がる光景に
二人は言葉を失う
「戦が…始まるのかと思いました…」
やっとの事で喜多が声を漏らす
「あの…行列が…私の為…に?」
「信長様は嘘をつかない
戦国一の花嫁行列を
見せてやるとおっしゃってたろ?」
「そう…だけど…」
「ま…実際あんな大所帯で
来るとは思わなかったが…」
政宗が愉快そうに笑うと
喜多が心配そうに呟く
「食事や水場の手配…宿泊とて
とても城内だけでは賄えますまい」
「報せを受けた時に
江介や宗時に対応を任せた
それに…向うとてあの人数だ
三成あたりが対応策を準備済みだろう」
「そうですね…
要らぬ心配でした」
喜多が肩の力を
抜くように息を吐く
「さて…出迎えの支度は済んでるな」
政宗が精悍な声で告げ
凛とした眼差しを向けた
『 勿論‼ 』
回りに集う家臣一同が
満面の笑みで応える
「お前ら…随分と張り切ってるな」
余りの意気込みに
呆れたように笑うと
「この婚儀を心待ちにしていたのは
お二人だけではありませんから」