第16章 十月十日~(婚姻の儀)
保春院が城に来てから
暫くたった頃
文が届いた
時同じくして
安土より吉報が届く
中身はいずれも同じ
最上が織田に臣従する
といった内容であった
これにより
最上家と伊達家が
表だって争う事は
無くなったと言える
政宗はほっと
胸を撫で下ろす
喜多や
保春院を知る古くからの
家臣達も同じ思いであった
「これで政宗様の
婚儀には母君として
誰に気兼ねすることなく
お越し頂けますね」
喜多が顔をほころばせると
白雪がふにゃりと笑う
「ああ…楽しみだ」
政宗は眼を細めて
白雪を見つめ
婚礼衣装に身を包み
微笑む白雪と
側に佇む母を想像した
嬉しい様な
気恥ずかしい様な
なんとも言いがたい
気分にいたたまれず
軽口を叩いて
紛らわす
「そろそろ安土から
使いの者達も来くる頃だな…
信長様のことだ派手な
花嫁行列を引き連れて来るぞ」
政宗がにやりとすると
白雪は困惑顔で頷き
「本当…ちょっと心配」
そう言って
喜多と顔を見合わせた
調度その時
バタバタと足音が響く
「御館様!斥候より
知らせがありました!」
政宗が目配せし
喜多が襖を開くと
廊下には
跪つく家臣の姿
「どうした」
厳しい顔付きになった
政宗が口を開く
「報告致します…あの…」
政宗の顔を見上げ
その先を言い淀む家臣に
訝しげな眼差しを向ける
「とうした?」
「それが…木瓜の旗印を掲げた
騎馬隊が2千…興10丁 長持30丁
屏風3双 几調箱2荷 鋏箱2荷 黒棚Ⅰ
御蔚子棚1 貝桶2荷等々…その他
お供の者…合わせて数千…
昨夜会津地方を通過したと…」
「ふっ…はは…ははっ
やってくれる…」
「まぁっ…」
政宗が愉快そうに笑だし
喜多は眼を丸くする
意味の分からない白雪は
きょとんとして二人を見た
「信長様がお前の
花嫁行列を差し向けてきた
数千の騎馬隊とお供を連れてな」
「のぶ…花嫁行列…
数千?え?…ええぇっ?」
眼を白黒させて
驚きの声をあげる白雪
「嘘でしょう…」
戸惑う白雪に
余裕の笑みを浮かべ
「嘘を付く理由がないな
まぁ数日で城下に入るだろう
自分の目で確かめるんだな」
そう言うと楽しげに
城下を見下ろせる窓辺に立つ
眼下に広がる
街並みを眺めながら
花嫁行列に驚嘆する
町の人々を想像して
込み上げる笑いを噛み殺した