第15章 十月十日~(母との約束)~
「必ず…当たり前の事を
当たり前に出来る
誰もが笑って暮らせる
世の中にしてみせます
この奥州は政宗にお任せ下さい」
「…ありがとう…」
ほっとした様に
少し寂しげに…けれども
誇らしげに保春院は政宗を見つめる
「頼みましたよ…」
微笑むと白雪に向き直り
視線を合わす
「政宗を頼みます」
「はい」
凛とした声で
白雪が応える
食事を一緒にという
申し出を丁寧に断り
婚儀での再会を約束して
保春院は帰り仕度を整える
駕籠の用意された庭先で
跪つく喜多を認めると
脚を止めた
「喜多…戻っていたのですか」
「はい…今は白雪様のお側に」
「そう…なら安心です
これからの事頼みましたよ」
「はい」
短い言葉の中で
二人は笑みを交わす
駕籠に乗る直前振り返り
青葉城を背に立つ
政宗と白雪の姿を
焼き付けるように瞳に収め
保春院は青葉を後にした
「…行っちゃったね」
「あぁ…」
寂しげに
城下への道を眺める白雪
家臣達を仕事へ戻し
後ろからそっと抱き締める
首筋に鼻先を埋めて
足りなくなった
白雪を補った
「…大丈夫?疲れた?」
腰に回された腕に
小さな手を添えた白雪が
不安げな顔を見せる
「…いや…問題ない」
一度答えた後
離すのが惜しくなって
言葉を続ける
「ただ少し…」
「少し?」
心配そうに振り返る
白雪の顎を掬う
「お前が足りなくなった」
「あっ…」
引き寄せ
甘い唇を存分に味わう
母上が最上にどう伝えるのかも
この先どんな立場になるのかも
分からない
不安がないと言えば
嘘になるが
白雪とこうしていると
不思議とどんなことでも
成し遂げられる気になる
「んっ…」
「ふっ…蕩けた顔」
身体の隅々まで
白雪を行き渡られば
幸福と気勢が心に
満ちていく
「お前はそうして
俺の腕の中で蕩ければいい
お前は俺が護ってやる一生な」
「私も…護るよ…政宗の心
一生…寄り添って政宗の心
護るから…ずっと離れない」
「っ…」
一瞬…息を詰める政宗
「…お前には敵わないな…」
溜息と共に呟いて
白雪をそっと抱き締めた