第4章 隻眼の龍
「楽しかったね」
「そうか?なら良かった…」
嬉しそうな白雪の顔に
嬉しくなる
闇の中
仄かな明かりを頼りに
手を絡めて歩く
政宗が本気で握り締めたら
容易く砕けるであろう
小さな細い手を
慈しむように繋ぐ
「…なんで黙ってたんだ?」
「え?」
「せ・な・か」
「あ…黙ってたって言うか…
ちゃんと言おうと思ってたんだけど…
政宗に襲われちゃって」
「ふーん 俺が悪いのか?」
「ちっ違うの…そうじゃなくて」
「まぁいい…今度襲う時は全裸にして
隅から隅まで眺めてからにする」
「えっ⁉」
「文句あるか?」
「っ…ない…です」
「素直で宜しい」
そう言うと素早く
耳たぶを舐めあげた
「ふぁっ…!?」
「くくっ…続きは戻ってからな」
「っ…もぉ!」
頬を染めて睨む
それが色欲に火を付けると
知らずに白雪は
政宗を煽り続ける
花冷えする夜道を
歩いたせいで
戻る頃には白雪の身体は
すっかり冷たくなっていた
湯浴みを勧めると
素直に従うものの
一向に部屋から動かない
「白雪?」
「なに?」
「なにって…湯浴み行くんだろ?」
「うん…」
返事ばかりで動かない白雪を
怪訝に思い顔を覗き込む
「どうした?」
「…真っ暗だよ?」
「はっ?」
「廊下も…脱衣所も…
湯浴みする所も…真っ暗」
「そりゃ夜更けだからな…
ちゃんと行灯が灯してあるだろ?」
「あの……ここお寺だし」
「っは……まさか…怖いのか?」
政宗の着物を
掴んだまま俯く白雪
堪えきれず吹き出して
肩を震わせ笑う政宗を
頬を膨らませて睨んでいる
「ははっ…
女の顔で煽ってきたと思えば
幼子みたいに暗がりを怖がったり
お前といると本当に飽きないな」
「……政宗の意地悪」
瞳を潤ませ
しょんぼりと俯く白雪
(っ…また…そんな顔する…)
じわりと熱くなる心中を
悟られないよう
大袈裟にため息をついて
手を差し出す
「ほら 来い」
「え?」
「怖いんだろ?
…確かにここは寺だしな
無念を残し死んでいった…」
「やっやめてっ‼」