第15章 十月十日~(母との約束)~
保春院の顔付きが
俄に変わり
政宗と同じ青い瞳が
光を帯びた
「織田信長とはどんな男か」
「………信長様…ですか」
政宗もまた
武将の顔となる
「戦国一の大うつけとも
第六天魔王とも言われる男…
そなたの眼にはどう映る…」
「…魔王と呼ばれても
無理もない程…時には残忍になる
…が戦乱の世では当然の事
半端な決断が悲劇を招く
それはご存知でしょう…」
「一度領地にした所は
とことん面倒をみて
街は華やぎ活性化していくのが
手に取るように分かる…
裁量は素晴らしく
見ていて勉強になります」
政宗は想いのままを口にした
「…そうですか…姫はどうです?」
「えっ?私ですか?」
「養子とは言え
お父上にあたるお方…どうお思いか」
「私は…」
白雪が思わず
政宗の顔を見る
「思ったままでいい」
政宗が優しい
笑みを浮かべ促す
「…いい人だと思います」
「いい人…ですか」
「はい…お腹が空いていて
握り飯が一つしかなくても
目の前にお腹を空かした人がいれば
それを差し出せる…そんな方です」
「な…んだ…その喩え」
政宗が可笑しそうに
顔を歪める
「駄目かな?分かんないけど…
そういう人だと思う…」
「ははっ…お前らしい」
「上手く言えないけど
自分だけ良ければいい
そんな考え方を嫌う人」
白雪は至極真面目に応える
「…あぁそうだな…
天下を納めるお方だ
いい人でなくちゃ困る」
政宗は白雪の頭に
手を置くとぽんぽんと
大きな手を弾ませた
そんな二人のやり取りを
保春院は微笑みと共に
静かに見つめる
「よく…分りました
兄上にもその様にお伝え致します」
何かを決心したように
眼を伏せる
「最後に一つ頼みがあるのですが…」
「頼み…ですか?」
政宗が意外そうに
眼を瞬かせる
逡巡の後…保春院が
恐る恐る口を開いた
「子が産まれたら…
一度抱かせては貰えぬか」
母の口から溢れた
思いもせぬ一言に
一瞬動きが止まる
「当たり前じゃないですかっ」
白雪の声が驚きに上ずった
隣の政宗を仰ぎ見る
「っ…」
政宗は
何かに耐えるように
眉を寄せ拳を握り締める
「母上…必ずやその腕に
我が子を抱かせてみせます」
青い瞳の奥に
揺るぎない力が宿る
「母が子をその孫を
腕に抱けぬ世の中など
正しい筈もない……」