第15章 十月十日~(母との約束)~
美しい襖絵と
天井絵に飾られた
青葉城の一室
保春院…政宗の母は
一人そこにいた
お付の家臣を
控えの間に残し
背筋を伸ばし真っ直ぐに
政宗を見つめる
「…久しいの…政宗
元気そうで何よりです」
「はい 母上もお変わりなく」
向かい合って座り
視線を交わす
「立派な城を築きましたね
米沢城より豪壮で美しい」
「奥州制覇の
基盤になる城ですから」
「…父上の
悲願でもありましたね」
美しい顔に陰が落ちる
「必ずや達成してみせましょう」
政宗が静かに
けれどはっきりと語気を強めた
「………」
なんと言うべきか
思案するように視線が揺れる
母として息子の
目覚ましい成長ぶりは喜ばしい
けれど
最上家の者として
政宗の活躍は
最上家衰退を
表す事に他ならない
言葉を見付けられないまま
視線を白雪に移す
「安土でお会いしましたね」
「はい…覚えていて下さったのですね」
白雪が嬉しそうに
顔をほころばせる
「勿論です…息子が
自ら決めた人ですから」
政宗によく似た顔で
優しく微笑む
「……っ」
少し驚いた表情をした
白雪に首をかしげる
「どうしました?」
「…あの…すいません…笑った顔が
あんまり政宗にそっくりで」
「まぁ…ふふっ」
「…親子だからな似て当たり前だ
お前の腹の子だって例外じゃない」
「それはそうなんだけど…」
「っ…あなた…子が?」
保春院が驚きに眼を見開く
「あ…はい…あのっ…
ご報告が遅れて申し訳ありません」
「あなたが気に病む事ではないわ
そう…政宗の子が…」
保春院は
小さく溜息を付くと
眩しい物でも見るように
政宗を見つめた
「本当に…成長したのね」
小さく呟くと
白雪を見つめる
「白雪姫…武将の妻となれば
辛い決断を迫られる事も
嫌な役目を強いられる事も
時にはあるでしょう…でも
妻として最後まで政宗を
支えてやって欲しい…そう願います」
「っ…はい絶対に
政宗の側を離れません」
「心配には及びません
戦場まで付いてくるぐらいだ
白雪以上に俺を愛し
支えられる者はいません」
保春院は心底驚いた顔を見せた後
朗らかに笑った
「まさかお前の口から
のろけを聞くとは思いませんでした」
そう言ってまた笑う
そうして三人は
穏やかに時を過ごした
「時に政宗…」
「はい」