第15章 十月十日~(母との約束)~
「どうだった?」
部屋に戻るなり
白雪がせっつくように
聞いてくる
「問題ない」
「大丈夫なの?」
「あぁちゃんと
仲間として迎えられてる
後はあいつが何処まで
心を開けるかだな」
「そっか…」
不安げに揺れる
緋色の瞳を思いだし
心配そうに顔を歪める白雪
「お前は人の事より
自分の心配してろ
体調はどうだ?」
「えっ?あっ…うん大丈夫
もう吐き気も収まってきたし」
本人の言う通り
顔色も良く
ほっと胸を撫で下ろす
そろそろ母上が訪れる刻限
今日は伊達家当主として
最上家との今後の関わりを
決断しなくてはならない
もし信長様に
反旗を翻すのであれば
撃ち取りにに行く
当たり前にしてきたことだし
母上とて覚悟は出来ているだろう
ただ…白雪の前で
そのやり取りをするのは避けたいが…
不意に白く細い指が
頬を撫でる
「っ…」
「…大丈夫?難しい顔してる」
不意討ちに思わず眉を寄せる
「…そうゆうの
突然するなって言っただろ
頭が切り替えなれなくなる」
高まる鼓動を誤魔化す様に
華奢な腰を引き寄せ
強引に口付けた
「っあ…」
微かな水音と共に
唇が離れる
その時
「保春院様 御到着にございます」
喜多の固い声が
静かに響き
白雪によって温められた
政宗の心が急速に冷えていく
「…承知した」
振り返り喜多と向き合う
全ての事情を
承知している喜多は
珍しく固い顔をして
口調も固い
「…緊張してるのか?」
「…いえ…義姫様には
お世話になりましたから…
今後の行方が気にかかるのです」
「あぁ…そうだな
敢えて戦いたい相手ではない」
「ふふ…」
「…なんだ」
政宗を
見上げた喜多が突然笑う
懐から懐紙を取り出し差し出す
「義姫様も久しぶりに
顔を見る政宗様が紅を
付けておられては驚かれましょう」
「あっ…」
朱に頬を染めた
白雪が小さく叫び
慌てて喜多から懐紙を受け取り
背伸びして口元を拭う
「ふっ…お前といると
緊張する暇もないな」
笑いながら
白雪の頬を撫でる
「ほら…つけ直してこい」
紅を引き直す
白雪を見つめながら
騒ぐ心を落ち着けた
「出来たか」
「はい」
いつもよりほんの少し
大人びた顔で頷き
その瞳に真っ直ぐ
政宗を写す
二人は手を取りあい
廊下を歩き出した