第15章 十月十日~(母との約束)~
「はぁ?湯浴みが嫌いって事か?」
「……心が…いや…体もか」
緋影が自虐的に笑う
政宗は眉を潜め緋影を見下ろす
「俺…盗っ人だけで
食ってた訳じゃないんです」
(綺麗過ぎて…ってそういう事か…)
「人殺しでも請け負ってたか?」
「めっ滅多な事
言わないで下さいよっ」
分かってると言いように
笑って肩に手を回す
「…体を売ってたんです
…女にも…男にも」
その一言で政宗の思考が停止した
「手っ取り早く金になるのが
脚を開く事だったから…
十一の頃から生きる為にそうしてた」
緋影がそっと
政宗の手を自分の肩から外した
「汚れた俺なんかが…」
俯く緋影の腕を取り
湯浴み場へ向かう
「政宗様っ?」
戸惑う緋影を無視して
着物を脱ぐ
「お前も脱げ」
「あのっ…」
「俺に脱がされたいのか」
怒った様に言われて
慌てて脱ぎだす
引き戸を開けると
鍛練を終えた十数名が
汗を流していた
「あれ?政宗様珍しいですね」
「ここの所はいつも
本丸の姫様専用をお使いなのに」
「なんだお前ら
俺がいると困るのか」
「困りますよー白雪様の話しが
出来ないじゃないですか」
「なんだよ白雪の話しって」
「今日は何してたとか
どこの甘味がお好きとか」
「おい白雪は俺の妻だぞ」
「見る位いいじゃないですかー」
「よくない」
「ほらーやっぱり
白雪様の話しが出来ない」
笑いながら軽口を叩きあう
「あれ?新入りの…緋影だったか?」
「なにしてんだー?入り口で」
「どした?こっちこいよ」
「若造…照れてんのか?」
「遠慮すんな仲間だろ」
最後の一言に顔をあげる
「…なか…ま」
「変な奴だなーお前」
「分かった!
まだ母ちゃんと入りてえのか」
ドッと笑いが起こる
「ばっ…馬鹿いってんじゃねぇ」
「わはは…そんだけ威勢がよけりゃ
仲間に向かって遠慮なんかすんな」
政宗が近づいて
緋影の頭に手拭いを掛け
くしゃくしゃと撫でる
「ほら…母ちゃんはいねぇが
じじぃなら腐る程いるぞ
早いとこ背中を洗ってやれ」
「政宗様ひでぇー
俺まだじじぃって歳じゃないっすよ」
湯浴み場が
穏やかな笑いに包まれる中
緋影は手拭いの下で
気付かれない様に
そっと涙を拭い
「どのじじぃから洗いますかー」
とおどけて見せた