第15章 十月十日~(母との約束)~
その日は朝から
慌ただしかった
公式に母上に逢うのは
何年ぶりか
最上家と伊達家の和睦の為
伊達家に輿入れした母は
父亡き後
最上家に引き戻されている
此度の
織田家と伊達家の縁組みで
最上家の立場を
どうするべきか
思案に暮れているに
違いなかった
万にひとつ
上杉や武田に付くとなれば
ややこしい事になるのは必至
そうなればこれが
今生の別れになるかもしれない
自分はこの乱世に産まれた身
等に覚悟は出来ている
が…白雪の前で
それを見せるのは
なるべく避けたい
悲しむ顔をさせるのは
二度と御免だ
早朝から内務をこなし
鍛練に顔を出してから
家臣らと会議を行ない
やっと部屋に戻る
廊下に来ると
開け放たれた襖から
喜多と白雪
それからもう一人
話し声が漏れる
(男の声…緋影か?)
部屋を覗くと
緋影が白雪と向かい合って
縫い物を手に奮闘していた
「…なにやってるんだ」
「あっ政宗」
白雪の顔がぱぁっと
明るくなる
可愛いくて
抱き締めたくなるのを堪えて
緋影を見る
手には男物の着物
「あの…縫い物を習ってました」
「はっ?」
きょとんと
三人を見下ろす
喜多がそんな政宗に
座れと促した
「そんなもん…何の為に
城に針子がいると思ってんだ」
「自分は半人前で
何も出来ないから
器用な手先を活かして
出来る事をして
役に立とうと思ったんだって」
白雪が優しく微笑む
「皆さんの道着の繕い位しか
役に立てないですけど…」
短く息を吐き
緋影の頭を
くしゃくしゃと撫でる
「あのなぁ…気にし過ぎだ
お前…鍛練後の湯浴みも
皆と別にしてるだろう…
桶なんかで水組みしなくたって
皆と一緒に汗を流せ」
「一緒にいる事で
得る事も多いのですよ」
喜多が付け足すように話す
「……なんか
申し訳なくて俺なんかと
…っ…すいません…お邪魔して」
何か言いかけて言葉を濁し
立ち上がる緋影
「ありがとうございました
縫い物覚えられて良かったです」
直角に頭を下げると
「お邪魔しましたっ」
逃げるように廊下へ出る
喜多と白雪が
追いかけろと無言で攻める
仕方なく追いかけた
「おい緋影…どうした…
何をそんなに気にしてんだ」
「政宗様…」
紅の瞳が狼狽える様に
大きく揺れる
「ここの皆は綺麗過ぎて…」