第14章 ピックアップ御礼記念~真夏の戦国武将~
「…ふん…生意気な奴だ」
その時織田軍の家臣が
小皿を手に謙信に近付いてきた
「あっ…あの…」
謙信が鋭い視線を向ける
「………なにようだ」
「しっ白雪様に上杉様は
梅干しが好物とお聞きしまして」
砂浜に膝をつき
小皿を差し出す
「わっ…我が母自慢の梅干しです」
「………」
謙信の眼が僅かに
戸惑いをみせる
白雪がにこやかに受け取り
謙信の膳に皿を乗せた
「とっても美味しいですよ
是非食べてみて下さい」
澄んだ瞳で微笑む白雪
跪ついた家臣も
一心に謙信を見つめる
謙信は小皿の梅を
一つ取り
皆の視線が集まるなか
口に運んだ
「…美味い」
「でしょう?」
白雪が嬉しそうに微笑む
家臣も満面の笑みを浮かべ
嬉しそうに白雪と視線を交わす
「ならば後程
今宵の土産に用意させましょう」
光秀がつかさず口を開き
意味ありげに微笑する
「お前が言うと普通の事も
策略に聞こえて仕方ない」
政宗が笑う
「…人聞きの悪い事を言うな」
政宗を睨む光秀に
秀吉が口を挟む
「日頃の行いが出るんだ
もっと皆と行動を共にしろ」
「馴れ合いは好まん」
「それは同感だ」
謙信がそう応えると
信玄が笑う
「お前はもっと人当たりを
よくしたらとうだ」
「人当たりのいい
謙信様なんて気持ち悪ぃけどな」
「確かに」
幸村と佐助も笑う
「貴様ら手元に鶴姫が
なくて命拾いしたな」
梅干しを肴に
酒を口に運ぶ
謙信が薄く笑う
「何なの…この光景」
家康は今だ
信じられない思いで
目の前で酒を酌み交わす
敵と味方を眺める
「誠に…
突拍子もない出来事ですね」
三成も開いた口が
塞がらずにいた
「お前と
同意見なんて不本意だが…」
「白雪様には
驚かされてばかりです」
「この件については同感だ」
「…でも…皆様
いいお顔をされていますね」
「……それも同感」
家康は聞こえない程の
声で呟いて手元の酒を煽った
少し離れたら所では
顕如がかつて共に過ごした
僧侶らと対面していた
「戻ってらしたらいかがです」
「馬鹿を言うな…
お前達と会うのも今宵が最後
私は地獄に堕ちる身だ」
「…お心は変わりませぬか」
「…………今宵は祈ろう
亡き者達の魂に」
暫く穏やかに歓談が続き
辺りがすっかり闇にとけ始める