第14章 ピックアップ御礼記念~真夏の戦国武将~
信玄がにやにやと
光秀の顔を見る
表情を変えぬままで
光秀は素早く
白雪の手を取ると
「このでかい木板は
甲斐の虎にお任せしよう」
さらっと述べて
信玄を残し
白雪と共に立ち去った
「っ…いいんですか?
ボード…波乗り板
あのまま信玄様に任せて」
「お前が
気に病む事ではない
それともあの男が気になるか
ならば政宗に
忠告せねばなるまい」
「っ…なりませんっ…
気になるんじゃなくて」
「くくっ…冗談だ
見ての通りの大男だ
お前が思う程の手間とは思わんさ」
「心配してくれるのか?
姫は本当に優しいな
真の天女のようだ」
振り向けば
いつの間にか
大きな木板を
軽々と持上げた信玄が
すぐ側まで来ていた
「だ…そうだ白雪」
驚いて声も出ない白雪を
光秀と信玄が可笑しそうに笑う
「もう…二人とも
からかわないで下さい」
白雪は二人を置いて
砂浜へ走り出すのだった
「転ぶなよ」
同時に声を掛け
苦笑いする二人だった
天幕につくと
膝を抱えて顕如の横に座る
不意に
肩に羽織が掛けられた
「寒いんだろう…唇が青い」
「あ…すいません
ありがとうございます」
「礼には及ばん」
後から二人が戻ると
砂浜に四人並んで海を眺めた
それぞれがコツを掴んだのか
次々に立ちあがり
少しずつ立っていられる
時間も延びていく
「楽しそうですね」
「あぁ…謙信が戦以外で
夢中になる事など珍しい…
幸村も…あんなに屈託なく
笑うのを見たのは久しぶりだ」
何気なく口にした白雪に
信玄が酒を手に応える
「それを言うなら
魔王とまで言われる信長が
小童のごとく笑うておるぞ…」
顕如がつられる様に口を開き
続いて光秀が話し出す
「政宗は水を得た魚だが…
秀吉や家康…三成まであのような
無邪気な顔をするとはな」
「ふふ…」
「なんだ?」
「そう言う三人とも
…楽しそうですよ」
三人とも
言われて初めて気付いた
相手の動きを
見張るでもなく
言葉の駆け引きに
頭を巡らせる事もなく
ただただ
波間の仲間を見つめ
酒を口に運び
潮風を肌に感じ
夏の陽射しを
眩しく思い
戦の事も
公務の事も忘れて
今このときを
穏やかに過ごしていた自身を
驚きと共に思い知る