第13章 十月十日
「そんな…」
「ちょっとつつかれた
程度で根を上げてたんじゃ
武士にはなれない…
見返す位の気骨がなきゃな」
白雪の顔が
不安気に曇った
「お前…そんなに
あいつが心配か?」
「え?」
抱いていた腕に
知らず知らず力が籠る
「俺の腕に抱かれながら
他の男の心配とは…
なかなかやるじゃないか?」
耳に唇を付け
低く囁けば
面白い程
身体を硬直させ
狼狽える白雪
「ちっ…違うのっ…
心配って言っても…
これはあれよ…うん」
「なんだよ?」
「秀吉さんが
私を構ってくれるのと同じ!」
「秀吉?」
思わぬ名に
眉を潜める
「妹だって
可愛がってくれたでしょう?」
「…お前なぁ…」
無邪気な様子で振り返る
白雪の顔に浮かぶのは
眉を潜める政宗への
疑問の表情
「え?怒ってる…?」
「怒ってねぇ」
「怒ってる…」
泣きそうな顔で
仰ぎ見る
「俺の腕ん中で
他の男の心配すんなって
言ってる側から…
他の男の名を出すとは」
「あっ…」
ようやく理解した白雪が
間の抜けた声をあげた
「俺もまだまだだな…」
「ちっ違うの!
ほら秀吉さんは
男って言うか
家族みたいな感じだし」
「へぇ…秀吉には
男を感じないか」
「当たり前でしょ!」
白雪は突然と
ばかりに頷いた
(へぇ…慌てて否定して
父親とかなんとか
言うと思ったが
そう来たか…
秀吉が聞いたら泣くな)
「当たり前なのか?」
思わず笑いながら言うと
真剣な顔で応えてくる
「寝ても覚めても
…500年後も
私にとっての
男はたった一人だもん…」
「……へぇ…」
白雪の透き通る様な
薄墨色の瞳が
妖艶に潤み
女の顔になる
「どんな奴だ?」
物欲しげな顔を
意地悪く知らん顔して
話を続けてやると
腕の中で
くるりと体勢を入替え
政宗の正面にしがみつく
「意地悪で意地張りで
格好付けで無鉄砲で…」
「…悪口だろそれ」
政宗は笑ながら聞いてやる
「努力家で
負けず嫌いで強くて
料理が得意で…
お酒に弱いのが可愛くて」
「最後のは悪意があるぞ」
言いながら白雪の鼻をつつく