第13章 十月十日
呆気なく政宗の膝に
横抱きにされ
面食らう白雪の
柔らかな唇を掠め取る
「っ…あっ…」
「当たりだろ?」
にやりと笑い顔を覗けば
見る間に頬を染め
政宗を愛らしく睨む
「っ…もぉ!」
「ふっ…怒るなよ」
膨らませた頬に
自分の頬を寄せ
白雪の香りを楽しむ
どんな香よりも
心癒し落ち着く
愛しい匂いに
曇り波立っていた心が
平静を取り戻す
「政宗?大丈夫?」
青葉に来て
暫くしてから
無意識に始め
今も続いている
政宗のこの癖に
どうやら
感づいている白雪
政宗が首すじに
鼻を埋めてくると
黙って背中に手を回し
政宗の気の済むまで
その細い両腕でしっかりと
政宗を抱き締める
「あぁ…
近々母上が来られるそうだ」
「えっ?」
白雪の身体が僅かに強張る
「お母様…が…そう…だよね
婚姻の儀の…前に普通…合うよね」
白雪がぽつりぽつりと
不安げに言葉を漏らす
「母方の親族から
嫁をとるって話を
蹴っての婚儀だ…
良くは思ってないだろう…が」
「…が?」
白雪が
上目遣いに聞く
「母上の事だ…織田家との
関係を深めた事は
認めているだろうな」
「…政宗のお母様は
政務に詳しいの?」
「詳しい…というか
しゃしゃり出る達だな」
くっくっと喉の笑うと
思い出す様に目を細める
「父上と母上の兄が
戦を始めた時は
自ら戦場へ乗り込んで
戦を止めさせた程だ」
「えっ?
お姫様なんでしょう?」
心底意外といった顔の白雪
その言葉からみても
おしとやかな元姫君を
想像していたのだろう
「ははっ…確かに最上家の
姫君として輿入れたと聞くが
あの無鉄砲さ…案外お前と
気が合うかもな」
政宗は気の強い母と
大人しく見えて
豪気な白雪の対決を思うと
なんとも言えない気分になり
思わず白雪の香りに
安らぎを求めたが
あれこれ考えても
始まらない
実際話してみて
気が合わなければ
今後会わずに済むよう
配慮すればいいだけの事
しかも母上も白雪も
快活で行動的だ
案外気が合うかもしれない
そんな風に
思い始めた政宗とは
対照的に白雪は及び腰だ
「だっ…だといいけど…
緊張しちゃうよ…政宗のお母様
嫌われちゃったらどうしよう…」