第13章 十月十日
秋の気配が
色濃くなり始めると
城中が慌ただしくなった
春先にと考えていた婚儀が
白雪の懐妊によって
早まった為だった
「えっ?霜月に婚儀?」
「あぁ腹が目立つ前に
きちんと輿入れをして
大名筋に示せと信長様の御達しだ」
「そっか…
だから皆忙しそうなのね」
信長の支配下又は
同盟国より
次々と祝いの品が届き
家臣らはその処理に
追われている
それぞれの
祝いの品に応じた
礼状を書くのは
通常なら家臣の
務めであるが
政宗は
自分に宛てられた
書への返事は
自ら書くべきと
持論を曲げず
家臣以上に
多忙な日々を送っている
白雪も体調が
安定しつつあり
気分の良いときは
赤子の産衣を縫うなどして
穏やかに時を過ごしていた
この日も政宗は自室で
礼状を認めており
そのすぐそばで
白雪は産衣を縫っていた
礼状を書き終えた政宗が
今日新たに届いた
書簡の束を手にとる
一つの文で手が止り
すぐ様中を確認する
小さな溜息をつくと
聞き付けた白雪が
心配そうに声を掛かた
「大丈夫?」
縫い物の手を止め
真っ直ぐに
背筋を伸ばし
文机に向かう
政宗の顔を窺う
「…あぁ何でもない」
白雪に向け
少し微笑んで見せる
すると白雪は
そっと立ちあがり
政宗の背後に回った
「どうした?」
振り返ろうとする
政宗の両肩に手をやると
固い筋肉で覆われた
政宗の肩をほぐすように
揉みはじめた
「朝からずっとだもの
…疲れたでしょ」
「これ位何でもない」
そう言いながらも
白雪の手をどかそうとはせず
黙ってされるがままに
白雪の手を受け入れている
少し背伸びして
顔を覗いてみると
目を閉じて
いつになく
寛いだ表情の政宗
以前は白雪の前で
こうした姿や疲れた顔を
見せようとしなかった政宗
今でも疲れたかと問えば
いいやと答えるが
それでもこうして
時折みせる無防備な姿
そんな些細な変化が
どうしようもなく
嬉しくて幸せで
白雪は顔を綻ばせる
「…ふっ」
「…?なに?思いだし笑い?」
突然笑みを溢す政宗に
白雪が不思議そうに聞く
「嬉しそうだな」
「えっ?どっどうして?」
「見なくもと気配で分かる
にやにやしてんだろ」
言いながら
白雪の腕を掴み
引き寄せる