第13章 十月十日
先程の手紙に
忘れていた過去を
掘り返してみる
武芸の鍛練も
武将としての心得も
積み重ねてきたと
自負している
が…女に関しては
褒められた事は
していない自覚があった
自分の欲望に
正直に生きて来た
政宗にとって
女は欲望を満たす
存在でしか
なかったのだから…
白雪と出逢うまでは
目に留まる女子があれば
相手が拒まない限り
いたずらに抱いた
気晴らしに抱くことさえ
厭わなかった
「何かあったの?」
不意に目の前に
白雪の顔が迫って
澄んだ薄墨色の瞳に
戸惑う自分の顔が映る
勘のいい白雪の事
誤魔化してもよい結果は
生まないだろう
逡巡の後
正直に答えた
「お前と出会う前に…
そういう仲だった女から
文が届いたんだ…自分も
奥州に呼んで欲しいと」
白雪の美しい瞳が
見開かれる
「えっ…」
「すまない…過去の事で
お前に嫌な思いをさせて…」
「…謝らないで…
その人…
政宗のこと…
本気で…好きなんだね」
「きちんと断る
それに…
お前と出会ってからは
他の女に触れていないし」
「いない…し?」
「触れたいとも思わない」
白雪の髪を撫でながら
胸に引き寄せる
「俺が欲しいと思うのは
…お前だけだ」
「政宗…」
「お前を俺のものにして
お前を失い…本能寺で取り戻して
また失いかけて…
やっとこの手に抱いてる」
「…ふふ
…本当にいろいろあったね」
「出会った瞬間から…
俺はお前に夢中だ」
「うん…分かってる」
「へぇ…いつから知ってたんだ」
からかうように聞くと
思わぬ答えが返ってきた
「この前…安土から
帰って来た時からだよ」
白雪が思い出したように
くすくす笑いながら答える
「…なんだよ」
訝しげに白雪の顔を覗く
「皆に言われたの」
「皆に?」
「家康さんは…
政宗さんの口から
女の話が出たのは
あんたの事が最初で最後だって」
「秀吉さんは
お前が現れてから
城の女中達が政宗様が
構ってくれないとこぼしてるって」
「政宗を本気にさせた事に
もっと慌てろ…
あいつの本気を
身をもって知るといいって…
言ってたのは光秀さんで…」
「っ…おいっ…分かったもういい」
自分をよく知る奴等からの
思わぬ密告に
照れくささが募る
「あいつら…
いつの間に白雪に
そんな事吹き込んだんだ」