第4章 隻眼の龍
くるりと身を翻し
信長に向き合うその刹那
好奇な視線が背中を漂う
一様に言葉を失い
驚愕が広間を埋め尽くす
その印は…
頼りないほど華奢な背中
左の肩口から肩甲骨にかけて
艶やかな髪の間に見え隠れする
「っ…これはっ!」
「ほぅなかなか面白い」
「あんたっ…」
「始めて本物を拝見致しました」
興奮した武将達が
一斉に口を開いたせいで
言葉が重なりあう
お互い顔を見合せ
まず光秀が口火を切り低く笑う
「隻眼の龍とは恐れ入る
相変わらず突拍子のない奴だ」
三成はごそごそと
眼鏡を取り出すと
まじまじと白雪のそれを見た
「その宝玉の中に描かれているのは
竹に雀…伊達家の家紋では?」
三成の言葉に一瞬
目を見開きその言葉が
真実であることを知ると
長い溜息の後で家康がぼそりと言う
「…相当な痛みを
伴うって聞いたけど…」
秀吉もまた溜息をつき
白雪が感じたであろう
痛みを想像し眉を寄せて言った
「お前って奴は…
嫁入り前だってのに」
政宗は
驚きに顔を歪めたまま
動けずにいた
衝撃でうまく息ができない
(な…んだ…これ…お前…何を……)
美しく身をくねらせた
群青色の龍
自分と同じ刀傷で
閉じられた右目
自分と同じ青い左目
鋭い爪で掴んだ宝玉には
伊達家の家紋が浮かぶ
幼き頃より心身を捧げ
護ると誓った我家名
その紋章が愛する女の肌に
刻まれている
白い肌から浮かびあがり
こちらを睨む隻眼の龍に
射ぬかれた政宗は
動きを封じられたまま
ただひたすらに
愛する女を見つめ続けた
「政宗…?」
黙り混む政宗に
白雪が振り返り
自分の肩にそっと手を添え
肩ごしに声をかける
「紹介するね…私の政宗」
紅色の唇で
艶然と微笑んだ
「っ…!」
堰を切ったように立ち上り
後から抱き締める
「私のってなんだよ…私のって」
「お前の政宗はここにいるだろ」
「政宗は皆の将だから…
これは私だけの政宗」
「っ…」
人目も憚らず抱き合う二人に
秀吉が声を荒らげる
「こら政宗!
御屋形様の御前だぞ!」
「あぁ…そうだったな…
あまりの衝撃に頭が回らねえ」
悪びれもせずに言い放つ