第4章 隻眼の龍
「ならば今その唇を差し出せ」
「なっ…出せません!」
両手で唇を覆い隠す
子供のような仕草に
思わず笑いだした信長を
真っ赤になって睨む
「かっからかわないで下さい!」
「何故出せぬ?
黙って顔を寄せれば済む」
「そういう問題じゃ…ないです」
「ではどういう問題だ」
「唇も許すのは一人だけですから」
意地悪く口元を歪めると
更に切り込んでくる信長
「ならばその一人になってやろう」
「っ…それは…その…
もう駄目ですあの…私…」
途端に歯切れの悪くなる白雪
そっと後ろを覗き見ると
政宗は余裕の表情で笑っていた
口を挟む気配すらない
(…もぅ意地悪なんだから…)
覚悟を決め
深い呼吸を一つすると
凛とした声で告げた
「政宗じゃなきゃ駄目なんです
政宗と生きる為に500年後から
戻って来たんです
ですから…どうかお許し下さい」
恭しく頭を垂れる
それから顔をあげ
珍しく悪戯な表情を見せると
「それに私…
政宗のものって印を
付けてしまいましたから」
となんとも魅惑的に笑う
「…印?」
白雪の言葉に反応した
政宗がやっと口を開いた
(口付けの後か?そんなもん
すぐ消えちまうだろうに)
「俺の印ってなんだ?」
眉をひそめ詰め寄る政宗に
意外そうな表情を向ける信長
「なんだ政宗…お前も知らんのか」
ゆっくりと
視線を白雪に戻し悠然と命じた
「ふっ…面白い見せてみよ」
「…ここで…ですか?」
ちらと広間を見やる
武将を始め各人の家臣や
寺で世話になった方々などが
固唾を呑んで見守っている
「…分かりました」
そう告げると
その場に立ち
打掛を足元に落とす
信長に背を向けると
胸の合わせに手を添え
一気に押し開いた
「‼」
細い肩が露になると
僅かな間の後
白雪の向こう側から
信長の笑い声が響いた
「くくっ…お前は…実に面白い
なんとも稀有な女子よ」
心底愉しげに笑い命ずる
「皆も見せるがよい
その印とやらをな」
信長に背を向けたまま
顔だけ振り返り確認する
「ではお許し頂けたのですね?」
「ふっ…元より戯れだ
本気にしたのは
お前ぐらいであろうな」
「また…からかったのですか?
もぅ人の悪い…」