第13章 十月十日
「しかし…あんな事が
あったすぐ後で子を授かるとは」
「あんな事があったから…
かもしれません」
白雪を部屋で休ませ
台所でうどんを茹であげていると
喜多が白雪にと
家臣が山で見つけた
あげびを持ってきた
二人は台所に並んで立つと
どちらともなく
白雪のことを話始める
「どういう意味だ」
「命を脅かす出来事が
あったからこそ
生きた証を……命を残そうと
本能が導いたのやも知れぬ
……とは思いませぬか」
「生きた…証……」
「犬や猫…鼠など
弱い者ほど子を残します
馬や牛はそうはいきません」
「人の妻を鼠と一緒にするな」
思わず笑う政宗を
喜多は真剣な面持で見返す
「白雪樣はあなた様の為に
途方もない時間を越えて
…戻られた
その後あのような
大怪我をされて…
危機を感じた身体が
子孫を残そうとするのは
納得が出来ます」
「…何が言いたい?」
「大切にして頂きたいのです」
喜多の思わぬ言葉に
政宗は目を瞬かせた
「政宗樣がこれまで
ここ青葉で……
どのような女子達と
睦合って来られたかは
全て承知しております」
次の言葉で盛大にむせる
「っ…ごほっ…ごぼっ…」
以前の政宗は
快楽主義そのままに
気に入った女子があれば
すぐに手を付けた
無論どれもが只の戯れで
数度口付けを交わして
放り出す事もあれば
何度か睦合う仲になって
それから飽きたように
忘れる事もあった
中には妻とは言わずとも
側室やお腹樣として
不自由なき生活をと考える
野心溢れる女子もいて
その都度
喜多が奔走していた
「なっ…なにっ…言って」
「妻が身重の時に
他の女子にうつつを抜かす
男が多いものですから」
喜多はあけびに包丁を入れ
食べやすくすると
ぎろりと横目で政宗をねめつけた
「俺が側室を持たぬと
白雪に誓った事知ってるだろう」
「勿論です
先々代樣の様に
一途な愛を貫いて下さいませ」
「お前に言われるまでもない」
心外だと言わぬばかりの顔で
政宗が喜多を睨む
「増築される御殿が
仕上がり次第に女中を増やします
白雪樣のお心を
乱す事があっては…と思いまして」
「入らぬ心配はするな」
「そうですか?
…これ安土から文です」
「…な…に」
喜多が懐から抜き出し
差し出された文には
明らかな女の文字