第13章 十月十日
その言葉に先程の
何事もなければ
と言う言葉の意味を
理解した
子が流れるのも
産まれた子が死す事も
産んだ母が死す事も
ままある事…
今までならば
それも運命
仕方がないとどこか
遠くに感じていた事柄が
急速に現実味を帯び
突然降りかかる災難の様に
見えない恐怖と不安が
波の様に押し寄せて
心を粟立たせる
今まで家臣の
妻子らの事を充分に
考えているつもりだったが
本当につもりだったと分かる
自分の部下達が
こんな不安と戦いながらも
妻子を残し自分について
戦へ赴いたのかと思うと
今更ながら胸が熱くなった
愛する者が
命をかけて
自分の血を繋ぐ
それがどれだけ
尊い事なのか
我が身に起きてみなければ
分からないことだった
「政宗…私…頑張るね」
笑顔でそう告げられ
溢れた愛で胸が苦しくて
しかめっ面になる
すると白雪は決って言う
「あ…政宗が照れてる」
政宗も決って応える
「…うるせぇ」
そうやって笑いあったのが
もう十日前の事だった
ここ数日は
白雪の吐き気が治まらず
蒼白い顔をして
横になっている事が増えた
何を口にしても
暫くすると吐いてしまい
政宗は気が気でない
子のある女達は
腹の子が元気な証と
笑っては
呑気に構えている
子のない喜多までが
狼狽える政宗を笑う
「白雪は大丈夫なのか?」
「あと一月もすれば落着きまする」
「何故分かるんだ?」
「医者にも観てもらったし
腕のいい産婆も間違いないと
申したではありませぬか」
「医者は〝かもしれぬ〟と言ったんだ」
「産婆は間違いないと!」
「何故分かる?
病だったらとうするんだ
どんどんやつれていくぞ」
「今だけのことですよ
落ち着きなさい」
「…お前
…よく落ち着いていられるな」
「子はなくとも目の前の
お方をお育て致しましたゆえ」
連日繰り返される
朝の会話を思い出す
ため息混じりに失笑する
喜多の姿を思い出して
思わず眉を潜める
「政宗…どうしたの」
「ん…なんだ?」
肩に凭れていた白雪が
頭をあげて覗き込む
「怖い顔して…」
「……そんな顔してたか?」
「してたよ」
白雪が細い指を
政宗の眉間に伸ばし
皺の部分をなぞる
「見えないってのは不安だな」
「え?」
「腹の中…見えればいいのにな」
「ふっ…あはは」