第12章 織田家の姫君
「分かっていて何故付いてきた」
「……」
男が静かに
顎の刀を押し退ける
政宗の眼を
じっと見据えたかと思うと
突然頭を地面に擦り付けた
「俺に機会を与えてくれ
あんたのようにまともな男に
生まれ変わる機会を‼」
「……」
家臣らも
思わぬ展開に息を呑む
無礼者として斬り捨てられても
誰も文句は言えぬ状況
一か八かの
博打に打って出た男の姿を
固唾を呑んで見守った
「……お前…名は」
「……橋二」
「はし…に?」
「橋の下で二番目に
拾われたから…そう呼ばれてた」
政宗が眉間に皺を寄せる
「俺の元で
生きるなら覚悟を決めろ
寝食の苦労はさせん…
がその命…我が国の為に使え
万一志し半ばで死すとも
お前の死は俺たちが無駄にはしない
お前の死を誇ってやる」
政宗と取り囲む家臣らが
真剣な眼差しを向ける
「必ずあんたの…
政宗様の役に立つ」
燃えるような緋色の眼が
真っ直ぐに政宗を見据える
「……いいだろう」
にやりと笑い右手を差し出す
橋二の手を取り立ち上がらせる
「緋影……お前は
今から緋影と名乗れ」
「ひかげ…」
「その緋色の眼…
影の様に付いて回る動き
お前に似合いの名だろ」
「っ…おっ…おう!」
どっと笑いが起きる
「まずは言葉の使い方を
覚えさせねばなりません」
控えていた江介が苦笑いする
「暫くはお前に任せる」
「はっ」
政宗が江介の肩に手を置き
去り際に緋影の方に押しやる
「あっありがとうございます!」
肌に気持ちの良い風が吹き抜ける中
若者の意気揚々とした声が
辺りに心地よく響いた