第12章 織田家の姫君
囲碁の勝負なのか
広間での
男達との勝負なのか
あるいは両方なのか
真意は見えぬが
どちらにせよ負ける気はない
勝ち気な顔で頷いて
信長を満足させる
喜多の後で勝負を
見守っていた白雪が
信長に向き直ると
「信長様…」
鈴のように
愛らしい声が
信長の耳を捕らえた
「この度は
養女に迎えて頂き
高価な着物まで誂えて頂き
ありがとうございました」
三つ指揃えて
頭を下げる白雪
「ふん…娘の面倒をみるは
親として当然の事であろう
正式な婚儀の際には
戦国一の花嫁行列を見せてやる
楽しみに待つが良い」
少し驚いたように
目を瞬かせた後で
嬉しそうにふにゃりと
笑いはいと頷く
政宗と視線を合せ
微笑み合う白雪に
いつの間にか
天守に入って来た
光秀が意地悪く笑う
「全く見ていられんな
二人で見つめ合ってはへらへらと」
「羨ましいのか?」
政宗が見せつける様に
白雪の肩を抱き寄せる
「まさかお前が
小娘にやられるとはな」
「俺は白雪が政宗に
毒されないか心配だ」
秀吉が眉を寄せて白雪を見る
「ふふっ…秀吉さん
心配してばかり」
「逆もまたありだぞ」
「なに?」
光秀の言葉に秀吉が
顔を向ける
「政宗が白雪に感化されて
へまをするやもしれん」
「へまって…ひどいよ光秀さん」
「それは怖いな…気を付けないと」
「政宗までっ」
「あり得ますね
白雪のボーッとしたの
感染したら戦で死にますよ」
「家康さんっ
縁起でもない事言わないでっ」
「家康様…白雪様は感染する
病をお持ちなのですか」
「三成は黙って」
「ふっ…ふふっ」
「なんだ白雪」
「どう致しました?」
「ごめん秀吉さん三成くん…
何でもないの…ただ幸せだなって」
何の曇りもなく
穏やかにこの空間を
幸せだと楽しむ白雪に
皆が同じように笑顔になる
「向こうで何かあったら
すぐに飛脚を飛ばせよ」
「何もなくても
手紙を書きますね」
「近くまで仕事で行く際には
そちらまで脚を伸ばそう」
秀吉 三成 光秀が
白雪に優しく声を掛ける
家康が政宗にむけ
何か書かれた紙を手渡した
「なんだ?」
「妊婦に必要な栄養と
つわりに効く薬草の一覧」
皆が驚いて家康を見る
「ありがとう家康さん」
白雪が目を潤ませて
家康を見つめると
仄かに耳を染め明後日を向く