第12章 織田家の姫君
「側室は持たぬと
姫と信長様にお誓い申した故」
政宗も感情のない
笑顔で返す
「左様であったか
…では仕方ない」
「政宗 信長様がお呼びだ」
秀吉の声に
群がる男達が一斉に退く
「承知した」
政宗は男達に会釈すると
広間を後にする
廊下で待っていた
家康の肩に手を掛け
深い溜め息をついた
「お疲れ様です」
「おう…」
「下衆の相手は疲れます」
「本当にな…なぜあいつは
ああもすらすら相手が出来るのか」
政宗の視線の先で先程政宗に
切っ先を向けられた男達と
光秀とが談笑を交わしている
「あの人はあれが
仕事の一部でしょ…」
一瞥した家康がそう応えた
「俺は御免こうむる」
「…俺もです」
天守に向かいながら
やっと普段の調子が戻る
「ありがとな」
「…何がです」
急にぶっきら棒になる家康に
喉の奥で笑いながら礼を言う
「気を使わせて
…待ってたんだろ」
「べつに……」
「あ…お二人とも
お疲れ様でした」
天守から三成が姿を現す
「中でお待ちです
今お茶を用意致しますね」
二人に笑顔を向け
すれ違う三成に
家康が苦言する
「三成 お前自分で
やろうとするなよ
女中に持って来させろ」
「おう 火傷するぞ」
政宗も軽口をたたくと
三成が眉を下げた
「ご心配痛み入ります」
「手当てが面倒なだけ」
二人のやり取りを政宗が笑う
天守に入ると
喜多と信長が向かい合い
勝負の真っ最中だった
喜多の少し後ろで
白雪が政宗の姿を
見つけ表情を輝せる
(可愛いやつ…)
「人を呼びつけておいて
早速喜多と勝負ですか」
家康が不機嫌に呟く
「まぁ待て」
信長が碁盤から
目をそらさぬまま応える
一手打っては
互いに思考を
巡らせる攻防戦
秀吉と三成が
茶を手に戻っても
戦いは止まらず…
やがて
信長が劣勢となり
敗戦の色が濃くなると
すっと長い指が
碁盤へ伸びた
ぱちんと
小気味良い音をたてて
信長の次の一手を政宗が指す
喜多が目を見張る
「政宗様みごとな一手です」
「ほう…」
信長が関心して碁盤を見る
「助けて頂いた礼です」
にやりと笑い信長を見る
信長もまた不敵な笑みを浮かべ
なんの事だと応える
「この勝負政宗に預ける」
信長が脇息に凭れ
碁盤から離れる
「必ず勝ち取れ」
「はっ」