第12章 織田家の姫君
「悪いか…
俺は白雪と共に
生きる事を楽しむ…なっ?」
「うん」
当然のように笑顔を
向けられて心が弾む
「さぁさぁ白雪様
今日は大仕事が
待っておりますよ」
ぽんと手を打ち鳴らして
喜多が皆を急かす
「早く朝餉を済ませて
お仕度を致しましょう」
「そうですね
巳の刻には皆様
お集まりのはずです」
三成はまた後程と言い残し
仕事に戻っていく
政宗も食事を済ませると
大名との話し合いの為
白雪の部屋を後にする
「喜多…頼んだな」
ほぼ全国から諸大名が集まり
城内は武士や領主達で
溢れかえっている
白雪にとっては
辛い記憶を引き起こす
引き金が溢れた状態となり
政宗は気が気でない
「承知しております
何があろうと決して
お一人には致しません」
「大丈夫だから…
政宗はお仕事頑張って」
白雪が柔らかく微笑む
真綿の様にふわふわと
儚げな姿に胸が締め付けられる
抱き締めて
無理はするなと囁き
部屋を後にした
大名達で賑わう広間に
脚を踏み入れる
父上が婚儀の約束を交わした
叔父上の顔も見える
母方の身内の姿もあった
どちらも自分達の娘と
政宗の婚姻による
武力領地拡大を望んでおり
父上と約束を交わした
叔父上からは
許嫁解消の代償として
大量の米や金銭を要求されていた
誰も彼もが
まだ若い政宗の足元を
すくわんとして不躾な視線を送る
(狸に狐どもが…
斬って捨てていいなら楽なんだが)
凛々しい顔で
視線を跳ね退け
年齢を考慮して
下座に座する
「これはこれは誰かと思えば
噂の独眼竜…伊達殿ではないですか」
(はぁ……始まった……)
これから始まる
長い長い拷問の様な時間を思い
心のなかでため息をつく政宗
ふと見れば家康が同じ様に
狸の相手をしては
苦虫を噛み潰している
二人はお互いを
励まし合うように一瞬だけ
視線を合せた……
拷問の様な時を
耐え抜いた頃
広間は正装した
男達で埋め尽くされた
秀吉 三成
光秀 政宗 家康の五人が中段の間に
それ以外の男達が下段の間に座する
上段の間の
絢爛たる襖が開かれると
深紅の羽織りを肩に掛け
金色に輝く扇子を手に
信長が悠然と姿を現す
脇息にもたれ掛かり
上段から広間を見下ろす
ざわつく広間が
静寂に包まれた