第12章 織田家の姫君
「…とは言うものの
腹に子があるなら話は別だ」
皆の視線が白雪に注がれる
「どうなんです?政宗さん」
気恥ずかしさに
白雪でなく政宗に
言葉をかける家康
「俺に聞くな
いくら器用でも子は産めん」
政宗が肩をすくめて笑うと
光秀が白雪の顔を覗いて
何時もの様に意地悪く笑う
「白雪は見た目にそぐわず
なかなか強情な女だからな
母となれば尚更…苦労するぞ政宗」
「挑むところだ」
「いや まずは安全に
出産させないと…」
「なんだ家康…
心配してるのか?」
「出産で命を落とす
女子がどれだけいるか
知らないんですか」
至極真面目な顔で
家康が眉間にシワを寄せる
「確かに…書籍で目に
しただけですが命掛けの
大仕事のようです…心配ですね」
心細い顔で三成が
顎に手をやる
「三成と意見が
重なるなんて不本意だけど
今回ばかりは同意見」
家康がちらと白雪を窺うと
困惑顔で皆を見ている
「不安を煽る様な事を言うな
大丈夫だぞ…白雪」
「秀吉…お前
何の保証もなく
大丈夫などと言う言葉を
軽々しく使うものではないぞ」
「おいっ光秀…お前こそ!」
等の白雪を置いてけぼりにして
秀吉と光秀は言い争いを始める
「いい加減にいたせ」
信長のひと声で
全員が制される
「白雪」
「…はいっ」
「先刻たぶんと言ったが
何時になればはっきりする」
「えっ…そうですね…えぇと…」
何かを数えるように指を折り
暫く考えてからぽっと頬を染め
「今が三週なので…来週…
あと七日程すれば間違いないと」
「……ふん…成る程…
知らぬ事といえ遊びが過ぎた
…疲れたであろう下がって休め」
「はい…あの…ありがとうございます」
「礼を言われる事があったか」
「養女にしていただいて…」
「ふん…忘れたか たわけ
貴様を拾ったのは
政宗でなくこの俺だ
貴様の運ぶ幸運は我が為にある
今後は娘として
俺に幸運を運ぶが良い」
信長なりの
武骨な優しさに
白雪は胸を熱くして頭を下げる
これから明日の
打合せをすると言う皆は
信長のひと声で武将の顔となる
勇ましく凛々しい
男達の姿を頼もしく感じながら
喜多と共に広間を後にする白雪
去り際に
悪戯な笑顔で振り返る
「おやすみなさい…父上様」
閉めた襖の向こうから
高らかな笑い声が響いた