第12章 織田家の姫君
白雪は
差し出された杯を
どうすべきかと
政宗に視線を移す
穏やかな表情で頷く政宗に
白雪は心を決めた
上座へ進み杯を受けとると
秀吉が杯に申し訳程度に
酒を注ぎ入れる
白雪の身を
案じてくれる秀吉に
そっと微笑みを贈り
白雪は杯に口をつけた
「貴様は我が娘となった
望みあらばなんなりと言うが良い」
偉そうな口調とは
全く不釣り合いな
柔和な表情の信長に
笑みが溢れる
「私の望みはただ一つ」
政宗を振り返ると
花のように
美しく微笑みを広げた
「っ…」
誰もが息をのみ
乱戦の世に咲く花を
眩しく眺める
政宗がつと前に出て
両手をついて頭を垂れた
一呼吸置いて
真っ直ぐ前を見据え
「伊達家十七代当主 伊達政宗
織田信長様が御息女
白雪姫を頂戴致したく参上仕り候
どうかお許し頂きたい」
精悍勇猛な
政宗の声が広間に響き
青い瞳が真っ直ぐに
信長の瞳を射抜く
広間に再び
水を打つ静寂が広がる
時が自ら刻む事を
躊躇うかの様に静まり返り
瞬きの音さえ
聴こえる様な気がした
たっぷりと間を置いて
信長が脇息から身体を起こす
皆が固唾を呑み
見守るなかで
信長は白雪に視線を移し
不意に口元を歪ませる
見れば恋情の籠った熱い瞳で
濡れた唇を薄く開き
うっとりと政宗を見つめる白雪
「相分かった」
信長は短く答えると
白雪に向け無遠慮に文句を付けた
「白雪その間抜け面を
どうにかしろ…見ておれん」
政宗が白雪を見て
呆れる様に笑う
「ふっ…見惚れるのは良いが
口は閉じろと言ったろ」
皆の視線を一気に集め
見る間に紅く染まる白雪
「しっ…失礼しました」
指先まで紅く染めた白雪が
慌てて政宗の隣に下がり
深々と頭を下げる
「まったくお前と言う奴は…」
呆れながら笑顔を向ける秀吉
「本当に政宗様がお好きなんですね」
にこにこと二人を交互に見る三成
「今更だけど呆れる」
見ていられないと
ぷいとそっぽを向く家康
「明日のお披露目で
間抜け面を晒すなよ」
光秀は愉快そうに言うと
白雪から喜多に視線を移す
「明日は粗相のない様に頼むぞ」
秀吉が続けて念を押す
「織田家の姫君として
恥じることなき
相応の立ち振舞いを
徹底しなければならん」
「承知致しました」
喜多が恭しく頭を垂れた