第12章 織田家の姫君
白雪は言うべき言葉が
見つからず逡巡していると
信長が先に口を開いた
「我が娘との婚姻となれば
貴様の身内とて何も言うまい
俺の耳に何も入らんと
思うたか?政宗」
「信長様も人が悪い…」
額に手を宛て
溜息をつく政宗
不機嫌な表情を隠しもせず
家康が口を出す
「…初めからそう言って下さい
悪趣味にも程がある
三成お前知ってて黙ってたのか」
「申し訳ありません
固く口止めされておりましたので」
家康に睨まれ
三成が申し訳なさそうに
政宗達に頭を下げる
「すまなかった…信長様が
自らの口で伝えると仰って」
秀吉がこれ以上ない位に
眉を下げて皆に謝る
「っ…待て」
政宗が我に返るように
白雪の肩を掴む
「お前っ…今の…」
白雪が頬を染め
はにかんだ笑顔を見せる
「はっきりとは
分からないけどたぶん……」
「たぶんってお前……」
「はっきりしたら
言おうと思ってたんだけど…
信長様がめちゃくちゃな事言うから」
「そう言うお前もずいぶんと
めちゃくちゃな事を言って退けたぞ」
呆れながらも光秀が優しく笑う
「政宗さんの子を
天下人として育てるって…
ぼーっとしてる様に見えて
あんたって案外強かな女なんだ……」
家康が感心したように
繁々と白雪を見る
「何とかしなきゃ
あの場で殺し合い
始めそうな雰囲気だったからっ」
「馬鹿じゃないの…俺達がいて
させる訳ないでしょ…そんな事」
「おいっ黙れ家康!
今はそんな事より白雪のっ」
「本当に子が出来たのか白雪
だったら…旅なんて
してる場合じゃないだろう」
政宗を無視して
秀吉が白雪の手を取る
「今夜はもう休め
明日にでも医者に」
「えっ…大丈夫だよ」
「おいっ手を離せっ秀吉!
三成何とかしろっ」
「えっ?あっ…はいっ…ええと…」
「政宗さん…三成に
なんとか出来る訳ない…」
先程までの静寂が
嘘であったかの様に
蜂の巣をつつく騒ぎとなり
高みから余興でも見るように
眺めていた信長が畳を扇子で
ぽんっと弾いた
一同がはっと動きを止め
信長に視線が集まる
当然の事の様に
集中する視線を受け流し
目の前の
膳に置かれた杯を手に取る
弾かれたように
秀吉が動き杯に酒を注ぐ
信長は白雪を真っ直ぐ見据え
杯を掲げると一気に煽る
空になった杯を
すっと白雪に差し出した