第12章 織田家の姫君
「信長様の元に参ります
その代わり…」
「政宗に手出し無用と申すか」
「……」
言いよどむ白雪に
信長は方眉を上げて
苛立ちを露にする
白雪は一つ
深呼吸をして
ちらと政宗を
視線の端に置くと
腹を括った
「…私の産む子を
天下人にして頂きとうございます」
「白…雪?」
政宗が驚きに顔を歪めた
「あんた…何いってんの?」
家康が眉を寄せ
白雪を窺い見る
「ほう…」
思わぬ申し入れに
信長も表情を変える
「俺の子を産むと申すか」
「…………」
白雪は答えず
信長を睨み付ける
次の瞬間
信長が声を立てて笑い出す
「貴様 政宗の子を宿したか」
喫驚とする一同
白雪は前を見据え
微動だにしない
秀吉が耐えきれず
口を挟む
「御舘様…戯れが過ぎまする」
「くっくっ…秀吉聞いたか?」
肩を揺らして愉快そうに笑うと
「こやつ政宗の子を
俺の嫡男にしろと言いよったぞ」
政宗が信じられない
と言う顔で白雪を見る
白雪はなおも毅然と
前を見据えたまま
白む程震える手を握り締める
「添い遂げられぬなら
愛しい者の子を天下人に
据えんとするか
何時の世も女子は強い
……恐ろしい程に」
信長は静かに白雪を見下ろすと
ゆったりと構え
穏やかな口調で告げた
「貴様は今から我が娘となる」
「……?」
意味が分からず
白雪の視線が揺らぐ
「織田信長の娘として伊達政宗に
嫁がせてやると言っている」
「えっ…」
戸惑う白雪の隣で
政宗が安堵した様に
長く長く息を吐いた
秀吉は
ばつが悪そうに微笑み
三成は
にこにこと笑みを浮かべる
家康は怒った様に信長を睨み
光秀は愉しそうに目を細めた
白雪だけが状況を飲み込めず
思わず喜多を振り返る
「信長様は困ったお方ですね
お二人を試す様なまねを…」
「…私どうなるの?」
「信長様の養女にと」
「養女?…」
「織田信長の娘となれば
伊達家の重臣も親族らも
文句のつけ様がございませんから」
「…っあ」
やっと事を理解して
白雪が前を向き直る
先程までの威圧感は
鳴りを潜め
慈愛に満ちた穏やかな
表情で白雪を眺める信長
「ひといですっ信長様!」
ほっと安堵した白雪が
信長に抗議する
「嘘は言っていない
貴様を寄越せと言っただけで
嫁とも側室とも言ってはおらん」
「うっ…」