第12章 織田家の姫君
白雪にそう言われ
つい先程の
家康との会話を思い反す
「意外です
何があっても我を失う程
動揺する事なんて
無い人と思ってましたよ」
「俺もそう思ってたよ」
家康は動揺する俺を意外だと言い
白雪はもっと動揺しろと言う
「ふっ…」
思わず笑った政宗の顔を
愛しい女が眉を下げ
哀しげに見つめる
「そんな顔するな…」
「無理だよ…そんな顔で言われても」
白雪の眼に写るのは
左半分が腫れあがった痛々しい顔
「ふっ…そうだな」
「ふっ…じゃないよ
男前が台無し」
「そうか?
自分じゃ見えないからな」
「まさかさっきの男の人と
殴りあった訳じゃないよね」
ぼんやりと
記憶に残る男は
ひ弱そうで
とても政宗が
殴られるとは思えないが
恐る恐る聞いてみる
「…秀吉だ…夏の事…話してきた」
予想外の名前に
言葉を詰まらせる
「っ………そっか……秀吉さんに
また…心配かけちゃったね」
「あいつは
何時でも心配してるからな」
何でもない事の様に笑う政宗
「政宗…私のせいで
殴られちゃったね」
「お前のせいじゃない
俺の判断力の無さが招いた結果だ」
「政宗の想いも知らずに
勝手に城下に降りた私が悪いよ…」
何度となく繰り返された
会話をまた繰り返す
「卵か先か鶏が先か
争っても栓なき事…
お二人共もうお止めください」
堪らず喜多が割って入った
時同じくして
襖の向こうに気配を感じる
ひと間置いて
三成の清廉な声が響いた
「失礼します
信長様がお呼びです」
政宗の表情が
俄に真剣身を帯びる
「今いく」
ひと声告げて
白雪の手を取り
立ち上がった
「政宗?」
いつになくぴりついた
雰囲気の政宗に戸惑う白雪
「なんでもない 大丈夫だ」
小さな手を
しっかりと握り締める
白雪が負けずに
握り返してくる
視線が絡み合い
自然と頬が緩んだ
「行くか」
「うん」
なんでもないと言いながらも
一抹の不安を経ちきれぬ政宗
不可解な態度の秀吉達
理由も知らされず
集められた大名達と
分からぬことばかり
先の見えない
苛立ちを抱えたまま
信長の元へと向かう政宗だった