第12章 織田家の姫君
「お前…信長さまが白雪を
ここへ呼んだ理由聞いてるか?」
「いえ 俺も不思議なんですよ
白雪なら来いなんて言わなくても
政宗さんにくっついて来るに
決まってるのに…
わざわざ呼びつけるなんて」
「そう…か」
「そろそろ
戻った方がいいですよ
白雪がそういう状態なら尚更」
「おぅ…ありがとな」
「政宗さんに
振り回されるのは慣れてますから」
家康が片付けを始めると
政宗がその手を止めた
「悪いがもう一人
手当てを頼みたい」
家康が怪訝な顔を向ける
「俺の顔が腫れたなら
あいつの手も腫れてんだろ」
「はぁ…分かりました
行ってきます」
にやりと笑う政宗に
内心ホッとしつつも
心底面倒そうにそう答えた
部屋に戻ると
喜多の膝を枕に
白雪は寝息をたてていた
顔を覗くと涙のあとが見えた
ズキンッ
胸を刺すような痛みを覚える
「時間が必要です」
喜多が静かに
政宗を見上げた
政宗の顔を見て
僅かに目をみひらく
「時間がたてば
白雪の痛みや恐怖は消えるのか」
驚きを言葉にはせず
質問に答える
「……分かりません
でも薄れていくのは確かです」
壊れ物に触れるように
柔らかな髪に触れる
「んっ…まさ…む」
目を覚ました白雪が
その瞳に政宗を写す…と
「政宗っ!」
「うわっ」
起きると同時に
飛び付いてきた
白雪に思わず
声をあげて仰け反った
「どうしたのっ⁉」
「おっおい…落ち着け」
衿元を両手で掴み
目を見開いて
喰い入る様に
政宗の顔を見つめる
「ちょっと
やり合っただけだ なんて事ない」
「腫れてるし
赤くなってるし
唇切れてるし
痛そうだし」
堰をきって捲し立てる
白雪の瞳に新な涙が滲んでくる
「待て待て!
大丈夫だから泣くなっ…
ほら…家康から
薬を貰ったからお前手伝え」
白雪を落ち着かせるには
手を動かさせるのが一番と
経験上知っている政宗は
薬壷を白雪の手に握らせた
「うん…」
喜多が荷物から
手拭を持ち出し白雪に手渡す
壷の中の
磨り潰された薬草を
手拭に塗りつけて
挟むように折り畳むと
赤く腫れた政宗の頬に
そっと押し当てる
「っ…冷たっ」
「ごめんっ…でも冷やさないと」
「あぁ…落ち着いたか?」
「っ………うん…怪我したとき位
もっと動揺してよ…心配させて」